医療・福祉関係者のみなさま

2011年11月21日

緊急連載 「社会保障・税一体改革」を読む (3)年金 100年安心はどこへ…?

 一〇月一一日、厚生労働省は年金の支給開始年齢を六八歳に引き上げる案を発表しました。既に現在、段階的に六五歳に引き上げてい る最中に、です。「まるで逃げ水」「本当に年金はもらえるのか?」…。怒りとともに、日本の皆年金制度の根幹を揺るがしかねない事態です。これも「社会保 障・税一体改革」の柱の一つ。年金はどうなる?(丸山聡子記者)

▼支給は遅れ、額は減る

 「一体改革」成案は、年金の支給開始年齢を現行から六八~七〇歳に引き上げるとしました。 「一歳引き上げるごとに、五〇〇〇億円程度の公費が縮小できる」と試算しています。厚労省案はその第一歩として六八歳までの引き上げを提案。現在五一歳以 下の人は、六八歳にならないと年金をもらえなくなります()。
 これだけ支給を遅らせるのなら、少しは年金の中身が良くなるのでしょうか? それどころか、一体改革が狙っているのは、年金支給額の“自動引き下げシス テム”ともいえる仕組みです。当面、三年間で二・五%の減額。その後は「マクロ経済スライド」を適用して毎年〇・九%ずつカットします。一〇年後には、現 在の年金額から一割も減ってしまう計算です。
 このマクロ経済スライド。二〇〇四年に自公政権が「年金一〇〇年安心プラン」と大宣伝した時に導入した仕組みで、平均寿命が延び現役世代の人口が減る と、自動的に年金額の増加を抑えるシステム。物価が下がらなくても減らされていくというわけです。
 「健康で仕事ができる一部の人のことしか考えていない案。五〇~六〇代といえば病気の好発年齢だというのに…」と話すのは、東葛病院(東京)のSW・趙理明さん。
 趙さんが最近担当した男性(65)は、年金が月に一二万円余。シルバー人材センターに登録するも仕事がなく、二年前から治療が中断していた糖尿病を悪化 させ、受診しました。生活保護基準を少し上回るものの、税金や保険料を払えば生保以下の暮らしです。国保料が払えず、分納↓滞納を繰り返していたため、資 格証明書になっていました。
 「年金だけでは生活がギリギリ。病気になるとたちまち行き詰まる患者さんが大勢います」と趙さん。同院の無料低額診療事業を利用する患者でも、多いのは 五〇~六〇代の男性です。「この年代は失業や退職で安定した収入が得られなくなる傾向が強い。また、次第に体調も悪くなってきます。そういう人たちは、六 八歳になるまでどうするのか? 雇用や暮らしの保障がないまま、今の案を通すなら、日本の年金制度は社会保障として機能しない」と指摘します。

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▼年金財政ひっ迫の原因

 支給開始年齢引き上げの理由として、一体改革は、「年金財政の持続可能性の確保」をあげています。では、年金財政がここまでひっ迫した原因は何でしょうか。
 大きな原因は保険料収入の減少です。大企業が正社員をリストラし、非正規雇用へ置き換えたことで、厚生年金加入者は前年比で約二〇万人も減りました(二 〇〇九年)。企業の賃金抑制で、加入者の月給は三%減、ボーナスも八%減と、保険料収入は減収の一途。
 一方、国民年金保険料の納付率も五割台。支給開始年齢が遠ざかるのでは、さらに国民の不信は募り、納付率は下がることが予想されます。

(民医連新聞 第1512号 2011年11月21日)

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