医療・福祉関係者のみなさま

2011年11月7日

人権と生活守る実践を交流 介護・福祉責任者会議 「地域包括ケアと今後の事業課題」より

 全日本民医連介護・福祉責任者会議が一〇月三~五日に東京で行われ、二二二人が参加しました。全日本民医連の高田一朗事務局次長 が、改定介護保険法や社会保障・税一体改革の問題点、地域包括ケアへの視点、介護ウエーブの方針、職員養成、民医連の「介護・福祉の理念(案)」について 解説。四セッションで県連報告とグループ討論を行い、全国の実践を交流(別項)したほか、都留文科大の後藤道夫教授が福祉国家構想について講演しました。 セッションII「地域包括ケアと今後の事業課題」から、三つのとりくみを紹介します。(新井健治記者)

小規模多機能 介護度2・2以上で黒字化

▼報告者 中野啓民(ひろみ)さん(兵庫・姫路医療生協 福祉介護センターつどい施設長)
 姫路医療生協は二〇〇七年以来、四つの小規模多機能型居宅介護施設を開設。来年三月に二カ所ができて計六施設となり、姫路市施設数の三分の一を占めます。
 土地は賃貸で、建物の建設費は平均六五〇〇万円。〇七年当時は国の補助金はなく、現在は建物、人件費等を併せて補助金は三五四〇万円です(表)。利用者 の宿泊費は補助金のなかった「ふるさと」のみ一一五〇円で、他の五施設は一〇〇〇円に設定しています。
 平均登録者数は二〇・五~二三・八人で、平均介護度は2・2から3・0。3というと、要介護4、5の利用者がほとんどです。一日の利用者は宿泊が六~七 人、デイサービスが一五人。訪問介護はばらつきが大きく、週二回から一日五回まであります。
 職員数は一事業所一二~一三人で、人件費比率は六〇~六三%。経営ですが、当法人の経験からみると登録者二二~二三人をキープし、平均介護度が2・ 2~2・3だと、開設二年目から黒字になります。毎月五〇〇万円の収益が黒字化の目安。平均介護度が3・0と高い「さろお」では、月平均収益が六二五万円 です。
 「ショートステイを自由に使いたい」との家族の要望が、利用者確保に結びつきます。課題はデイサービスのサービス量の調整。要介護2~3でADLキープ の認知症利用者の利用回数が多い傾向にありますが、あまり増えると経営的に成り立ちません。そこで家族に理解を求め、一日一五人の利用制限を設けていま す。このほか、登録者に空きが出た際に短期で次の利用者を確保すること、登録者が入院した場合、待機期間の減収への対応などがあります。

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高専賃 月10万円以内の利用料を実現

▼報告者 石井秀夫さん(北海道・社会福祉法人協立いつくしみの会常務理事)
 協立いつくしみの会は今年一〇月、北海道の社会福祉法人として初めて生活支援サービス付高専賃(高齢者専用賃貸住宅)「ぽろか」を開設しました。札幌市 厚別区に一三五四平方メートルの土地を借り、一階をデイサービスと小規模多機能型居宅介護施設、二~三階を四〇室の高専賃にしました。
 一カ月一〇万円以内で入居できる施設を目標に事業を計画、家賃三万八〇〇〇円、光熱費二万二〇〇〇円(冬季)、食費三万六〇〇〇円で、計九万六〇〇〇円 に抑えることができました。経営的には満室が損益分岐点。赤字は出さず、デイで収益をあげる計画です。
 入居者は女性が七割で、平均年齢は八〇歳代。認知症や身体虚弱の人が多く、一人暮らしができなくなった場合は、付設の小規模多機能を利用してもらいます。
 課題は(1)経営的に安否確認から相談援助まで入居者をサポートする職員を専任で置けない(2)一室でも空けば赤字になるので、常に待機者が必要(3) 「朝食は食べない」などさまざまな生活習慣の人がおり食数把握が困難、などです。
 高専賃には現在、固定資産税や不動産取得税がかかっています。私たちは「公益事業なので無税にしてほしい」と、北海道、札幌市と交渉しています。また、 札幌市以外の入居者は、付設の小規模多機能を使えないという矛盾も抱えています。

24時間対応 ショートステイの職員が兼務

▼報告者 藤井新一さん(三重民医連事務局次長)
 みえ医療福祉生協は二〇〇八年、夜間対応型訪問介護「ほっとステーション」を開設しました。ほっとステーションは在宅総合センター宮川さくら苑(伊勢 市)のショートステイ内にあります。午後六時から翌朝八時までの事業で、利用者宅に通報装置を設置、緊急の場合はステーションのオペレーションセンターに つながります。月額基本料金一〇〇〇円、随時訪問は介護職一人が一回五八〇円、介護職二人が一回七八〇円、定期巡回は一回三八一円です。
 利用者は二〇~二五人ですが、一〇〇人を超えないと利益は出ません。ほっとステーションではショートステイの夜勤職員がオペレーターを兼ね、人件費を節 約しています。三重県内の夜間対応型訪問介護は四カ所、全国でも一六一カ所にとどまります。需要はあっても利用料が高くて利用しづらいことや、事業者に とってもリスクが大きいため、普及しません。
 また、今年八月から改定介護保険法「二四時間対応の定期巡回・随時対応サービス」のモデル事業にとりくんでいます。モデル事業は伊勢市の要請で始め、月 額基本料金は六〇〇円、定期巡回一回一〇〇円、随時訪問は昼間一回三〇〇円、夜間一回五〇〇円です。厚労省は「一日複数回の訪問」や「一回の訪問時間は二 〇分以内」を条件にしていますが、条件に当てはまる人が少ないため、利用は五人にとどまっています。

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700人が「格差ない介護めざす」

 【長野発】一〇月一日、「格差のない介護の制度をめざす県民大集会」が長野県松本市で行われ、約七〇〇人が参加しました。長野県民医連のほか社保協、保険医協会、「認知症の人と家族の会」長野県支部など実行委員会が主催。県や市の後援も受け、多くの県民が集まりました。
 集会では、認知症の人と家族の会副代表の勝田登志子さんが記念講演。厚生労働省社会保障審議会の委員を務める勝田さんは、審議内容や改定介護保険法の問 題点を解説。「利用者本位の介護保険制度をめざして発言しているが、思うようにいかない。現場から声をあげて下さい」と呼びかけました。
 パネルディスカッションでは、大学教授や介護職、自治体職員らが、安心して介護を受けられる社会の実現に向けて討論。会場からは「改定介護保険法の内容 には、利用者も介護職も不安をつのらせている」「痰吸引など介護職の医療行為は現場での矛盾広げる」などの意見がありました。
 今後も多くの団体や家族、地域住民と力を合わせ、「安心して住み続けられるまちづくり」をすすめます。(村田洋一、南信勤医協)


介護・福祉責任者会議のセッションと報告者(敬称略)

■特別セッション 東日本大震災と民医連のとりくみ
「全国支援で行えた福祉避難所を中心とする支援活動から学んだこと」小野ともみ(宮城厚生福祉会)
■セッションI 介護ウエーブ2011「後半戦」
(1)「みんなで作る予算要望について」中村和司(東京・東都保健医療福祉協議会)
(2)「自治体介護懇談会のとりくみ」城間愛子(沖縄医療生協)
(3)「介護ウエーブ2011とりくみ報告」矢島圭(大阪民医連)
■セッションII 地域包括ケアと今後の事業課題
(1)「庄内における協同の実践報告」秋庭知典(山形・庄内医療生協)
(2)「小規模多機能居宅介護の展開と地域包括ケア構想に対する対応方針」中野啓民(兵庫・姫路医療生協)
(3)「中長期計画の具体化としてのサービス付高専賃建設のとりくみ」石井秀夫(北海道・協立いつくしみの会)
(4)「夜間対応型訪問介護事業と24時間定期巡回型訪問サービス(モデル事業)にとりくんで」藤井新一(三重民医連)
■セッションIII 民医連の事業と運動を担う職員の養成
(1)「県連介護職部会立ち上げ~仕事のやりがい、生きがい見えてきた」小森仁(神奈川民医連)
(2)「近畿地協2011年度介護福祉分野管理者養成研修会の経験」田中とみ子(京都民医連)
(3)「全日本民医連キャリアパス作成指針(案)」全日本民医連介護・福祉部
■セッションIV 民医連の介護・福祉の理念(案)
(1)「民医連介護・福祉の理念(案)学習会のとりくみ」結城弥生(山形虹の会)
(2)「介護・福祉理念の実現に向けて~長野民医連介護委員会のとりくみ」原誠(長野県民医連)
(3)「民医連介護・福祉の理念(案)のとりくみについて」相良陽二(長崎健友会)

(民医連新聞 第1511号 2011年11月7日)

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