医療・福祉関係者のみなさま

2011年11月7日

小西恭司 緊急被曝事故対策本部長に聞く 原発事故、放射能汚染から健康を守るための民医連の基本方針とは

 全日本民医連は、「原発事故、大規模環境汚染のもとにある住民の健康を守るための基本的方針」を一〇月一日付で発表しました。福 島県をはじめとした環境汚染地域の住民に対し、民医連はどう向き合うか、を打ち出した初めての文書です。原発への警告を続けてきた京都大学原子炉実験所の 研究者・今中哲二・小出裕章両氏との意見交換も反映されています。緊急被曝事故対策本部の小西恭司本部長(全日本民医連副会長)に聞きました。(木下直子 記者)

 福島では避難、除染、食品の安全性の確保で不確かな状態が続いており、住民の精神的・身体的緊張は高まっています。このような中で、福島をはじめ被災地の民医連職員は、患者を守り、地域医療を守るために奮闘しています。
 「基本方針」は、住民の健康を守る民医連の基本姿勢です。これまでも必要な情報は発信していましたが、内部でも様々な意見がある中、職員が一致して行動できる指針が必要でした。

今中・小出両氏との懇談で整理できたこと

 対策本部メンバーは、九月に京都大学原子炉実験所の今中・小出両氏と情報交換し、そこで新たにした認識も基本方針に反映させました。「情報開示」の状況と「避難」「食品の安全」の問題が参考になりました。
 福島第一原発の事故による環境汚染の実態は十分に分かっておらず、迅速な情報開示が重要です。しかし、公的機関の研究者には震災以降、研究結果の発表が 規制されました。こんなことは初めてで、勇気ある人が発信し続けているという状況だそうです。情報公開のために、この言論統制をうち破る必要があります。
 避難の問題については、「民医連は子どもたちを避難させる方針を出さないのか」との意見や、事前に避難に伴うリスクを指摘する意見が寄せられていました。
 事故直後から民医連は「住民には住み続ける権利も避難の権利もある」という見解でしたが、小出さんの話で根拠も明確になりました。
 日本には「一mSv/年を超えて被ばくする人を出してはいけない」とした放射線障害防止法等の法律がありますが、現在それを国が破っている状態です。
 小出さんは「国が法律を破り、猛烈な汚染地域で国民を生活させるのなら、避難を望む人には国が仕事を含め移住を保障すべきだし、福島で生活し働き続ける ことを希望する人には、情報を公開し、除染を徹底し、食品の安全を確保すべきだ」と指摘しました。
 すなわち、住民には福島(被災地)で生活し働き続ける権利があります。また避難に伴うリスクの大きさから積極的にすすめるものではありませんが、避難する権利もあります。
 ちなみに「避難」とは、行政命令による避難と自主避難を指します。期間も移住から数カ月単位、リフレッシュ避難・子どもの林間学校などの一時的避難、週末避難、労働者の避難休暇など様々です。
 避難をめぐって住民や家族が対立する話も聞きますが、これには国が「責任は国にある」と明確にして住民が絆を強め健康に生きられるよう支援すべきです。
 特に、各地に自主避難し苦境に立たされている避難住民への支援が急がれます。要求に寄り添い、生活費や予防接種の問題など関係自治体とも連携して支える必要があります。
 食品の安全性の基本は、「生産者も消費者も守ること」。暫定基準値以内の汚染でも子どもには食べさせないこと、しかし暫定基準値を超えた食品について は、東京電力に買い上げさせるなどして、生産者のモチベーションを保つ措置の必要性が指摘されました。

 行政的な避難命令がないと避難できない人が大半。そして、セシウムの汚染は沖縄にまで拡がっています。放射能に侵された日本の私たちが、自らの安全を守るための近道はなにか?
 それは、避難した人も、しない人も、できない人も、絆を強め、免疫力を高め、放射能測定の網の目を日本中に広げ、国と東電に責任ある対応を要求し続け、放射能の低減、反核・平和・脱原発の運動に全員でとりくむことです。
 「基本方針」はこれらのことを整理して出しました。

民医連綱領と関連して原発事故被害への対応

 原発事故をめぐる問題は民医連三九回総会方針に盛り込まれた「健康権」というキーワードを 通せば分かりやすい。「健康権」はWHO誕生から存在する国際的な考え方で、中核は「医療保障」で身体・精神的に健康であること。そして「居住権」、「食 品の安全性を確保する権利」、「環境権」、「安全な労働環境を持つ権利」です。
 この五つの条件を福島県の避難指示が出されていない放射能高汚染地域に当てはめてみると、放射能汚染で健康を脅かされ、避難などで住まいを追われ、特に 生活の苦しい人を中心に安全な食品の確保が困難になり、広域に汚染された環境下で緊張を強いられて暮らし、労働環境は民医連職員も含め悪化しています。
 つまり、「健康に生きる権利」の全てが国と東京電力に奪われているといっていい。
 だから原発被害への対応は「日本国憲法の理念を掲げ、ひとびとのいのちと健康を守る」と、述べる民医連綱領の基本にもかかわる重要な課題の一つです。
 【民医連は、将来にわたって安心して暮らせる生活を取り戻すための長いたたかいを支援することを自らの課題として位置づける】と宣言した基本方針通り、福島の仲間とともに、たたかっていきたいと思います。

(民医連新聞 第1511号 2011年11月7日)

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