医療・福祉関係者のみなさま

2011年11月7日

相談室日誌 連載338 命は守れたけれど… 希望持てる支援とは 日西行雄(京都)

 Aさんは、昨年春に自宅で脳梗塞を発症し、当院に入院になった六〇代の男性です。弟さんと二階建ての持ち家に二人で暮らしています。
 大学卒業後、定職に就かないまま、亡くなった母親の財産を頼りに暮らすなど、不安定な生活を送っていました。
 リハビリは順調に進み、ADLも介助で四点杖歩行ができるようになりました。在宅へ帰る準備を始めましたが、弟さんとの関係がかねてより悪く、協力が全く得られないまま昨年一〇月に退院しました。
 自宅に戻りましたが、弟さんは介護をしません。AさんのADLは低下し、一一月にベッドから転落、当院に再入院となりました。この時からSWがAさんに 関わることになりました。支援をすすめていくとAさんには、弟さんからのネグレクトのほか、無年金で経済的に困難があり、当院に多額の医療費の未払いがあ るなど、問題を抱えていることが分かりました。
 入院している間に問題解決をと、行政に虐待ケースとして報告し、今後について、関係者でカンファレンスを実施。行政に虐待ケースと認定させ生活保護を申 請すること、そして特養へ措置入所を目指す方針を確認しました。
 その後、Aさんの生活保護が決定、今年三月に特養への入所も決まりました。しかし、退院目前のある日、病室でAさんに「安心して暮らせるようになって良 かったですね」と話しかけると「どうでもいい。もう死んでも構わないよ」と沈んだ表情で呟きました。その反応に私たちがすすめた支援が、Aさんの気持ちに 添うものだったか、疑問が生じました。
 私たちの支援が、本人の気持ちと一致しないことは、Aさんのケースだけではありません。しかし、本人の思いを最優先して対応できる環境はありません。こんな希望と現実の挟間でSWは悩むことが多いです。
 今回のケースでは、行政などと連携して、Aさんの命を守ることはできました。患者さんが希望を持てるような、支援はどうすればできるのか、SWとして意識しつづけていきたいとと考えています。

(民医連新聞 第1511号 2011年11月7日)

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