医療・福祉関係者のみなさま

2011年10月17日

「復興」私たちの提言(3) 福島に戻り農業がしたい 政府はTPPではなく 実態に沿う復興を 福島県農民連 亀田俊英 会長

 各分野から復興を語る被災地からの連載3回目は、福島県農民連会長の亀田俊英さん。福島第一原発の事故で漏れだした放射性物質は 畜産、野菜、米など農産物に影響し農家の生活はいっそう厳しくなりました。そこにTPPへの参加を掲げる日本政府。農家の現状を聞きます。(矢作史考記 者)

 今回の東日本大震災は想像もできないことでした。
 私自身、福島第一原発から一六キロほど離れた南相馬市で、米と野菜を作って生活していました。震災が起きた時には出荷間近の野菜もありましたが、翌一二日には二〇キロ圏内にいる私たちにも避難指示が出ました。
 情報がない中でその時はすぐに帰宅できるだろうと思い、とにかく現場を離れることを優先しました。しかし避難指示は解除されず、事態は収束するどころかさらに深刻になっていきました。
 今、残してきた私の田畑を含め避難地域の農地は荒れ放題だと思います。

汚染された農産物

 原発事故の影響で、最初に放射性物質が検出された農産物は原乳でした。国が出荷停止を決め たため、畜産農家は牛の乳を絞っては捨てるという毎日を送りました。その結果、私が把握している限り、二〇キロ圏内の相双地区の一〇軒ほどの畜産農家のほ とんどが廃業に追い込まれました。
 野菜や果物農家はどうか。汚染されていない野菜もほとんど売れません。ビニールハウスで作った作物も風評被害で売れなくなったと聞いています。収入もな くなり、生活は深刻です。米づくりは秋が最盛期ですが、米農家は今年作付けした米から放射生物質が出ないか、心配が絶えません。消費者の中には、去年の米 ですら福島県産はダメという人もいるのです。
 すべてが風評被害かというとそうではなく農産物の汚染はあります。私の親戚にも検査の結果、内部被曝がわかった一歳半の子がいます。だから私たちは消費者に対して「福島の農産物を食べてほしい」とは言えません。
 そんな状況ですから、先が見えないため、仮設住宅に入っている仲間の中には、何もすることがないせいで気力を失い、お酒を飲んでいる人もいます。若い人 の中には農業を諦め、県外で違う職業に就いた人もいます。ですが多くの仲間は、また福島に戻って農業をやりたいと考えています。

TPPや原発ではダメ

 われわれ農家が復興に必要だと考えていることは、東京電力の責任を明確にして賠償させることと、TPP参加の阻止です。
 私たちは、事故が起きる前から東電や県に原発の危険性と、地震発生時の安全対策の強化を要求してきました。しかし、残念ながら安全神話の前に私たちの声 は排除されました。同社に対し、出荷停止になった農産物を持っていき、損害賠償請求を出すなどのたたかいをしています。
 東電が被災者に配っている損害賠償請求の書類にも、大きな批判があがっています。書類の中には、一つの項目について請求できるのは一回だけ、といった文 言もあり問題です。対応があまりに悪く、双葉町では住民からの不満の声を受け、町長が東電の説明会を拒否する事態も起きました。
 売れなくなった野菜の賠償の仮払いなどは、すすみはじめてはいるものの、被害の実態に沿うものではなく不十分です。
 さらに政府は、TPPへの参加をあらためてすすめようとしています。消費者の「外国産の農産物のほうが安全」という声まで利用しようとしています。農家の立場からいえばこれは火事場泥棒です。
 私は震災が起きてからまだ住所を変更していません。福島に戻りたいという気持ちがあるからです。福島県農民連では他県に避難し、脱退する会員がいる一 方、この原発被害でいっしょにたたかうために加入する人も増えています。
 TPP阻止と原発事故の補償のために、民医連のみなさんにも協力してもらいたいと思います。


TPP(環太平洋連携協定)とは
 TPPとは昨年秋に菅前総理が参加表明した経済協定。すべての輸入品関税を撤廃し、モノ以外でも金融や医療など幅広い分野で国民生活を守る規制が撤廃されます。
 農水省はTPPの参加で日本の食糧自給率が40%から14%まで落ち込むと試算。日本の「食の主権」がなくなり、いざという時の食糧確保ができなくなります。

(民医連新聞 第1510号 2011年10月17日)

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