医療・福祉関係者のみなさま

2011年10月3日

駆け歩きリポート 東京 派遣切り裁判に勝利 多くの人に支えられた僕が 今度は“たたかう”介護職に

鈴木重光さん 千住介護福祉専門学校2年

 東京民医連の千住介護福祉専門学校に通う鈴木重光さん(39)は、ちょっ と変わった経歴の持ち主です。二〇〇八年秋のリーマンショックで派遣切りに遭い、大企業相手に提訴、「たたかう派遣社員」として話題に。今年七月末に、勝 利和解を果たしました。「声をあげることで、現実を変えられた。大勢の人に助けられた僕が、今度は声をあげづらい利用者の権利と生活を守る介護職になりた い」と語ります。(新井健治記者)

 二〇〇四年から、「三菱ふそうトラック・バス株式会社」川崎工場(神奈川県)で働いていた 鈴木さん。忘れもしない〇八年一一月一八日、派遣会社から一本の電話が。「一二月二六日付けで解雇。寮も出てもらいます」―。当時三六歳。「この歳で新た な仕事が見つかるのか。明日から住むところをどうしよう」。途方に暮れていた時、テレビで見かけた首都圏青年ユニオンを思い出しました。
 「労組なんて正社員が入るもの。自分には関係ない」と思っていましたが、ワラをもつかむ気持ちで相談。同ユニオンに加入して三菱ふそうに団体交渉を迫 り、翌〇九年に直接雇用を求めて提訴。「街角でビラ配りやデモを見ても、正直、ウザかった。その僕が裁判なんて」。
 裁判闘争の一方、昨年四月、千住介護福祉専門学校に入学。「キャリアを積める、きちんとした仕事がしたかった。今までろくな人生じゃなかったから…」。

劣等感の日々

 鈴木さんは福島県いわき市出身。大学卒業時は就職氷河期で望む職に就けず、叔父の土木業を 手伝います。次に勤めた中小企業向けノンバンクでは、鈴木さんの担当で融資を断った経営者が自殺したことも。詐欺まがいの訪問販売会社では、上司に殴られ る同僚を見て逃げるように退職。その後も飲食店など転々、家賃も払えなくなり、就職情報誌で見つけたのが寮付きの三菱ふそうでした。
 鈴木さんは農家の長男ですが、跡は継ぎませんでした。「実家には泣きつくことができません。寮のある仕事が必須条件でした」。仕事はトラックの運転席に ペダルなどを取り付ける単純作業。派遣には昇給もボーナスもありません。「まさか三〇代で、派遣で働くとは思っていなかった」。劣等感にさいなまれる日々 でした。
 弱い自分を見られまいと、寮では友人を作りませんでした。同じ派遣なのに、「俺はあいつらとは違う」と同僚を見下すことで、なんとかプライドを保ってい ました。「あのひん曲がった根性はなんすかね。今は本当に恥ずかしい。でも、そうするしかなかった」。

社会とつながる衝撃体験

 〇八年末、三菱ふそうは約五〇〇人の期間工や派遣社員を解雇しました。首都圏青年ユニオンは鈴木さんの相談を受け、すぐに行動を開始。組合員が早朝から工場前でビラをまき、解雇と退寮の撤回を求めました。
 「見ず知らずの僕のために、大勢の人が集まってくれた。嬉しいと同時に“衝撃”でした」。プライドを守るため、他人と距離を置いてきた鈴木さん。その“他人”が、これほど頼りになるとは。
 組合活動や裁判闘争とともに、年越し派遣村のボランティアや、ホームレス支援にも足を踏み入れます。「人とつながることで、考え方や行動が少しずつ変化 していった」。それは、経験したことがない新鮮な感覚でした。
 「僕はたまたま労組に相談して、会社の寮を出ずにすんだ。寮を追い出されていたら、今ごろはホームレスになっていたかもしれない。僕と支援される人の間 に境目はない」。そう気づいた時、鈴木さんは社会とつながりました。

民医連で働きたい

 千住介護福祉専門学校でも新たな出会いが。熱心な教員たち、そしてクラスメート。最初の授 業のテーマが、憲法二五条の生存権を定着させた「朝日訴訟」でした。まず権利について学ぶことで、介護に対する考え方が変わりました。「入学前は排泄、食 事、入浴の介助をするのが介護職と。いわば、お手伝いさんのイメージです。それが利用者の権利を守り、生活を組み立てる仕事と分かった」。
 年越し派遣村などで、声をあげられない人の存在を実感した鈴木さん。「しんどい思いをしているお年寄りも大勢いるはず。利用者本位の生活環境を整えるた め、知識と経験を積みたい。今の介護保険と福祉制度で実現できないのなら、制度も変えていきたい。未来はつくることができる」―。そう言います。
 派遣時代は傷つくことを避け、心を閉ざしていた鈴木さん。今はクラスメートとの会話が楽しみです。介護改善を求める署名活動や八月の震災支援でも、行動をともにしました。「仲間も日々、成長していて楽しい」。
 専門学校は二年制。一〇月に特別養護老人ホームで最後の施設実習です。「卒業後は民医連で働きたい。今まで誰かの力を借りてばかりいた。今度は僕が利用者の力になりたい」と目を輝かせました。


◆首都圏青年ユニオン

 非正社員でも、1人でも入れる労働組合。派遣、パート、アルバイト、フリーターら多くの労 働問題を解決してきた。賃金に合わせて組合費は低いため、常に財政的な問題を抱えている。活動の継続と専従者を配置できるよう、「首都圏青年ユニオンを支 える会」ではワンコイン募金(1カ月500円)を募っている。
詳しくは同ユニオン TEL 03(5395)5359
http://www.seinen-u.org/
■10月23日、まともな仕事と人間らしい生活を求め、同ユニオンなどでつくる実行委員会が、東京で「全国青年大集会」を開催する。

(民医連新聞 第1509号 2011年10月3日)

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