医療・福祉関係者のみなさま

2011年10月3日

フォーカス 私たちの実践 医療安全対策をすすめよう(3) 青森・健生病院 WHO安全チェックリスト導入の経過と課題

 当院では手術部位の左右誤認を起こしそうになったインシデント事例をきっかけに、WHO安全チェックリスト(以下、リスト)を二〇〇九年五月から導入し、誤認対策を中心に医療安全対策の見直しを行いました。導入の経過と現状、課題を紹介します。

リスト導入までの経過

 左右確認は、術前訪問時と患者が手術室に入室する時に患者本人の確認、医師・看護師がそれぞれカルテまたは画像で確認するものでした。手術チーム全体での部位確認や情報共有は行っておらず、マーキングも各科バラバラで誤認対策が統一されていませんでした。
 インシデントの内容は、手術部位の左右を誤りかけるというものでした(下項)。安全管理者と問題を検討し、ミスを引き起こす原因となるポイントを洗い出 しました。そして目で確認できるマーキングと、執刀前に手術チーム全員で確認作業をする「タイムアウト」の導入が必要、との結論になりました。タイムアウ トとは、「手術に関わる医師、看護師のメンバー全員が一斉に手を止めて、患者と手術部位を確認し合うこと」です(日本手術医学会『手術医療の実践ガイドラ イン』)。またその後、WHOが手術室に関する安全チェックリストを出していると知り、リスト(上表)も導入しました。
 リストの内容は、当院の実情に合わせてアレンジしています。また、「重要事項は事前確認して二重チェックすべき」という意見が出て、WHOの(1)麻酔 導入前、(2)皮膚切開前、(3)手術室退室前、に(4)入室時、を加えた四部構成としました。なお、マーキングの方法については各科で意見が分かれ、統 一されていません。

導入後の現状と問題点

 リストは緊急手術を含む全ての手術に使用しました。左右誤認などの大きな事故はありませんが、問題点も明らかになりました。
 (1)タイムアウト…導入後半年で、タイムアウト時にも 作業をするスタッフが見られるようになっていました。実態調査を実施すると、タイムアウト時に作業をしているのは器械出し担当者と執刀医が多いと分かりま した。「執刀医が物品を要求するので器械出し担当も作業してしまう」「執刀準備が間に合わない焦りがある」などの意見があり、手術までの作業が優先されて いると分かりました。
 また、コーディネーター役である看護師のタイムアウトのタイミングにばらつきがあることも、作業の手を止めてタイムアウトができない一因だと考えられます。
 (2)マーキング…記入方法が各科で異なり、患部側に丸印をつけるか、左右の文字を記入する方法があります。ある手術で、左側の手術なのに左足に「右」と誤記入するインシデントが発生。「左」「右」の記入そのものを誤ると、文字を信じて左右誤認する危険性がありました。
 (3)入室時チェック…手術室入室時、ネームバンド未着 用、ネームバンドID番号の誤記入・未記入、マーキングしていない、マーキング誤記入、抗菌薬投与忘れ、抗菌薬問診票なし、手術同意書持参忘れ、などの事 例がありました。しかし、これらの問題は執刀前までには解決されており、リストの導入によってインシデントの発生を防止する効果があったと考えられます。
 一方で、これらの問題の原因は、ほとんどが外来や病棟などの送り手側の確認不足であり、入室前の送り手側の意識を高めることも必要だと分かりました。

今後の課題

 今後の課題は次の三点です。
 (1)タイムアウトが形骸化せず、執刀直前までチーム全員が確認作業を遵守できるように、外回り看護師のコーディネーター力を高めること、(2)マーキ ング方法を再検討すること、(3)手術室内のスタッフだけでなく、関連部署に対しても手術安全の啓発活動をしていくことが必要です。


インシデント事例
  2009年1月、左鼠径ヘルニア手術。入室時、患者本人と看護師で手術部位を「左」と確認。入室後は執刀医と看護師がカルテで手術部位を確認する決まりで あったが、このときは行われず。麻酔・皮膚消毒後、圧布を掛け術野の確保をしたが、執刀直前に器械出し看護師が「右」に術野が確保されていることに気づき 左右誤認を免れた。

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(民医連新聞 第1509号 2011年10月3日)

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