医療・福祉関係者のみなさま

2011年9月19日

フォーカス 私たちの実践 災害医療対策のとりくみ 福岡・健和会大手町病院 全職種参加による災害訓練  「万が一の事態」に備え認識を深める

 当院は災害拠点病院として、全職員が年一回の災害被災患者受け入れ訓練(以下、訓練)を行っています。今年で八回目となり、模擬患者役も含め二二八人が参加しました。当訓練を主催する災害医療対策委員会の今回の訓練のまとめから紹介します。

災害時の動き

 訓練では模擬患者役に症例などのエピソードを事前レクチャーし、外傷箇所に「圧痛」など症 状を書いたシールを貼ります。一方で参加者はシールを見たり、症状を聞き出し、模擬器材・薬剤を使って搬送・処置などを行います。今回の災害発生は土曜日 の午後に、列車脱線事故が起きたことを想定しました。まず職員の呼び出しから始めます。軽症から重症まで約八〇人の患者が来ると想定し、トリアージ(下 表)、治療を行います。
 災害発生時から対策本部設置・患者収容までの動きなどは左項の通りで、二〇分間を目標に体制を確立します。医師も含めスタッフが対策本部設置後に、部 署・職種・名前を体制表に記入して災害医療スタッフに登録し、本部は各職種の稼働人員を把握します。
 また訓練の参加職員には昨年から「アクションカード」が対策本部員から配布されています。これは誰でも災害対応ができるように各自の役割や責任範囲、指 揮者などを指示した行動指標カードです。訓練では、カード指示まで各自の役割は本人に伏せられており、当日この「アクションカードを見て災害時の対応がで きる」ことを基本目標にしました。

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各部門の訓練と課題

 部門ごとの主な訓練内容と課題を紹介します。
 対策本部…これまで連絡手段は院内PHSでしたが、今年は本部から各統括責任者に一斉に連絡が取れる無線機を初めて採用しました。訓練では消防の無線と混線し、情報伝達に混乱がありました。
 看護部門…主な訓練内容は、資器材の準備と搬送、退院・転棟・病床確保などのベッドコントロール、診察介助・処置などです。
 緑エリア(軽症)では、「患者急変に対応できない人員数だ」との指摘があり、人員増が必要でした。黄エリア(中等症)では、処置・入院が滞ると車いすや ストレッチャーが不足すること、混雑で処置スペースも不足することが分かりました。スペース確保が課題でした。
 また、手術室への搬送時に、「カルテ未添付の検査伝票などをまとめるファイルが必要」、「トリアージタグだけでは患者取り違いの恐れがあり、ネームバンド使用が必要」などの点にも気づきました。
 放射線部門…日当直の二人体制から技師を招集し、担当業務に対応します。訓練では照射録記載ミスが数件あり、ミスを出しにくい様式への変更が必要でした。
 検査部門…主に検査受付・入力作業と血液製剤の出庫作業を訓練します。訓練では血液型を検査した上で輸血を想定していますが、「『緊急O型』使用も検討すべき」、「コストもかかるが平時から血液製剤を多めに確保すべき」との意見が出ました。
 事務部門…主に被災患者受付、トリアージエリア受付・各エリアへの案内です。資材調達などに参加しては、と意見が出ました。

今後の方向性

 当委員会は、この間の訓練で一定の対応ができるようになったと評価しています。しかし、こ れまでの訓練は人為災害を想定しているため、東日本大震災を踏まえて今後はライフラインの途絶なども想定し、自然災害に即したアクションカードも整備する 予定です。無線機も台数を増やし、スムーズに運用できるよう工夫します。
 また、患者を集める場所の割り振りも検討課題です。黄エリアは点滴以外、経過観察不要の患者が多いものの、処置などに時間が最も割かれ、スペース不足に もなりやすいエリアです。緑エリアは病院玄関付近で広いスペースがあるものの、混雑すれば病院への出入りや退院にさえ支障が出ます。
 このほか当委員会は、この訓練のほかに昨年度からトリアージ学習会を年三~四回行っています。また、訓練に欠席した職員への学習会の実施など、職員全体 の認識共有も重要です。「災害は忘れたころにやってくる」ではなく、「災害は忘れる前にやってくる」ように、常に備えていきたいと思います。

災害受け入れ訓練の流れ

(1)模擬ホットラインで患者収容要請を受ける
(2)救急リーダー医師が救急外来のみで対応不能と判断し、院長へ報告
(3)院長ら病院管理者が災害レベル2を判断し、即した災害医療体制の指示を館内放送する
(4)各部門の初動(リーダー・トリアージ医師任命、受付・救護所・臨時薬局の立ち上げなど)
(5)対策本部設置の館内放送、本部登録する
(6)本部でアクションカードを配布する
(7)患者収容開始(2次トリアージ、各エリアへ)

災害レベル1:救急、ICU、手術室を中心に救急初療室で対応可、通常カルテ・伝票を使用
災害レベル2:救急初療室では対応不能で病院全体で対応、災害用カルテ・ID・伝票を使用

(民医連新聞 第1508号 2011年9月19日)

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