医療・福祉関係者のみなさま

2011年9月5日

フォーカス 私たちの実践 医療安全対策をすすめよう(2) 兵庫・東神戸病院 「院内暴力」に関するとりくみ  ~調査結果と安全大会からみえた現状~

 昨年、東神戸病院は全職員対象の第一回安全大会で、「院内暴力についての問題提起」を行いました。その際、全職員三〇九人から院内暴力の実態調査を行いました(回答二〇五、回答率六六%)。これまでのとりくみ、安全大会と調査結果から見えた課題を紹介します。

とりくみの経過

 同大会では、当院の院内暴力の現状と認識について問題提起をしました。当院の安全マニュア ルは「患者、職員、外来者に対する暴行、傷害」の定義が明確でなく、「大きな事件」のみを管理者が対応してきたのが現状でした。「病院での暴力とはどうい うものか」、当院の暴力に対する考え方・方針・対応を明確化する必要性を共有し、実態調査などにとりくみました。
 また、同じ年の二回目の大会では、(1)調査結果の報告、(2)対策マニュアル案の議論、(3)院内暴力の倫理的検討の報告後にグループで議論しました。

調査結果

 今回の調査は『日本看護協会調査研究報告(No.71 2004)』掲載の首都圏の患者の 暴力状況と比較しました。身体的暴力は首都圏では三人に一人、当院では四人に一人が経験し、言葉の暴力は両方とも三人に一人が経験者でした。また、経験者 の職種は圧倒的に看護職でした。
 暴力の発生状況…(1)約半分の職員が身体的暴力を経験、(2)言葉の暴力の頻度は、常時を含め複数回が多い。「よくあること」の回答者数が経験者数よ り多く、日常化していると考えられます、(3)いじめは約七%の職員が経験、(4)セクハラを経験した職員が一四%で、発生場所は圧倒的に院内ですが、患 者宅などの院外でもありました。
 暴力の発生状況の比較(表1)…(1)言葉の暴力は、当院では患者からが多く、首都圏のような管理職・所属長からは少ない。(2)いじめは首都圏と違い、他部門職員からが半数以上と分かりました。
 暴力の対処方法(表2)…(1)同僚や先輩に話した件数が極度に少ない点は、首都圏との相違点、(2)発生件数より報告数が少ないのは、職員間のコミュ ニケーションの問題と同時に、報告する(してもよい)と判断できず、暴力を個人の問題だと認識しているものと考えられます。

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現状のまとめと課題

 「暴力を受けても自分自身の中に押さえ込んでいる」などの意見がありました。暴力問題を意 識したこともなかった職員もおり、本調査をきっかけに暴力問題の存在に「気づく」ことができました。また、管理者だけに暴力対策を求めるのでなく、自発的 に対策をとりくむべき、との意見も。職員が、自ら職場での暴力の現状に向き合い、振り返る場となりました。
 この間のとりくみで、暴力とは何かを定義しました(左上項)。暴力は許されないものですが、その背景に疾患や生活の問題もあり、それを理由に患者さんが 排除されるべきものでもないと考えます。医療現場で経験する暴力の多くは、「暴力」という言葉自身が適さないものかもしれません。
 だからこそ、今後は自分の中だけで我慢するのではなく、相談・報告できるしくみづくりが課題です。報告された「暴力」を、迅速に人権の立場で集団的に検討する開かれた組織づくりが重要です。

今後の方向性

 今後、これまでのまとめを次の五点に教訓として活かし、とりくみます。(1)院内暴力に対 する姿勢を組織理念の中に明らかにする、(2)院内暴力に対するマニュアル化をすすめる、(3)暴力とその原因について職員学習・研修をすすめる、(4) 暴力を生まない組織づくり、(5)安全な職場環境の改善です。


暴力の定義

身体的暴力
ほかの人や集団に対して身体的な力を使って、身体的、性的、あるいは精神的な危害を及ぼすものをいい、たとえば殴る、蹴る、叩く、押す、噛む、つねるなどの行為
精神的暴力
(1)言葉の暴力:個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、おとしめたり、経緯の欠如を示す行為
(2)いじめ:個人や複数の職員を、悪意を持って会話に入れなかったり無視したりする行為
(3)セクシュアル・ハラスメント:意に添わない性的誘いかけや好意的態度の要求など、性的な嫌がらせ行為
(4)そのほかの嫌がらせ:人種や皮膚の色、言語、国籍、宗教、出生などに基づいた一方的な嫌がらせ行為

(民医連新聞 第1507号 2011年9月5日)

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