民医連新聞

2002年7月21日

病院分野“転換”の到達点は―

医療経営構造転換全国検討会(病院)

病院分野“転換”の到達点は―

全日本民医連は7月6~7日、「医療経営構造転換・全国検討会~病院関係トップ交流会~」を福岡市内で開催。全国43県連から439人が参加しました。

 全国検討会開催の目的は、6月に熱海で開催した診療所関係の交流集会にひきつづき、?医療・福祉供給体制の激変 の情勢認識の一致、?民医連各病院、病院をもつ法人の転換の到達点の現状認識と交流、?2003年8月にむけた「たたかいと対応」の具体的な議論の三点 に、2002年診療報酬改定の対応と交流を加えた4点。
 1日目は肥田泰全日本民医連会長の開会あいさつにつづき、「全国検討会への問題提起」を水戸部秀利副会長が、一般・療養の病床区分をはじめとした事前調査結果報告を岩本鉄矢事務局次長がそれぞれ報告しました。
 指定報告は、静岡、熊本、東京、青森、北海道からの5演題。療養型病床への転換や臨床研修指定取得など、病院や関連する法人が現在の医療情勢下で直面する課題を3病院、2法人から報告しました。
 ナイトセッションとして行われた川崎協同病院問題をめぐる特別報告では、「川崎協同病院の再生に向けて~事件の経過とその背景」を内部調査委員会佐々木 秀樹委員長が、全日本民医連の提起として、水戸部秀利副会長が「川崎協同病院で起きた『事件』から学ぶ」と題して報告しました。
 2日目は、10テーマの分科会を開催。療養型病床への転換、診療報酬改定への対応のテーマでさらに病床規模別に分け、合計13会場で行われました。

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“法人・病院のトップが局面打開を”

医療・経営構造転換全国検討会より 1日目(7月6日)の全体会の概要を報告します。

「転換」は35期でも大きな課題
 冒頭、肥田泰全日本民医連会長があいさつに立ち、本検討会開催の経緯と目的、医療改悪法案をはじめとした、現在の国会審議の状況にふれました。
 「全日本民医連が第35回総会において、克服しなければならない大きな課題として掲げたのは『医療経営構造の転換』『医師の確保と育成』『組織のイノ ベーション』の3つ。現在、この課題に対して、計画や準備状況は様ざま。この集会で大いに交流し、来年の八月までに方向が定められるようにしよう」と述べ ました。
 また、ナイトセッションでの川崎病院問題では「この問題から全日本民医連として何を学び、どう対応するのか、また自らの院所の医療内容、病院の管理のあり方を点検する上での教訓を学び合いたい」と述べました。(別項)

 

 再生にむけての改善提案

1. 患者の人権を最優先する病院の姿勢の確率

2. 病院内民主主義、職員の民主主義の能力の向上

3. 第三者評価の導入と活用

4. 法人・病院の管理機構の改革と危機管理体制の確立ラインとスタッフ機能、法人の医療活動掌握

5. 医師集団の連携・協力の推進

6. 倫理委員会の確率
早急に終末期医療の検討、看護倫理の検討

7. 民主的集団医療の構築と点検

8. 共同の営みの医療の強化

9. 労働組合との信頼関係の構築

 

民医連の役割規定する転換点
 交流集会への問題提起は水戸部副会長が行いました。
 はじめに、第四次医療法にもとづく病床区分の申請期限が2003年8に迫っている現在、民医連の病院のうち、半数が対応を決定し、半数が検討中という状 況にあると報告。また、対応を決定している病院においても、実践にむけた職員の論議、医療と介護の具体的な運用のイメージ、経営的裏付け、地域連携のあり 方など、たくさんの課題を残していると述べました。
 また、2003年8月までという時間的な制約だけでなく、21世紀初頭の医療情勢の激変の中で、今後の民医連の地域での役割を規定する大きな転換点の 今、病院・法人トップが職員に正面から転換の必要性を語り、局面を打開していこうと訴えました。

 

改定医療法への対応未定約4割
 開催にあたり、2003年改定医療法対応の実態調査、02年診療報酬改定の当てはめ結果と同年4月の患者動態、法人を対象とした医療・経営構造転換へのとりくみについての事前調査結果を岩本鉄矢事務局次長が報告。
 改定医療法対応については、回答のあった108病院中、37病院(34.3%)が「討議は煮詰まってきたが未決定」と回答。うち100床台の病院が約4 割を占めます。区分を決定出来ない理由については、「一般病床を継続し直前に判断」「管理部内で合意ができない」「必要条件が充足できず」という順になっ ていると報告しました。

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指定報告から

 静岡・三島共立病院の矢部洋医師は、「小規模病院における転換のとりくみ」として、 在宅医療ネットワークを展開し経営構造を変化させたと報告。98年7月、在宅医療部門の独立強化をはかるために、在宅専門のクリニックを近接地に開設した のをはじめ、2002年には、デイサービス、訪問看護、介護用具貸与事業など介護福祉事業の一本化をはかるために、共立福祉サービスセンターを開設し、利 益確保。また2002年7月、病院は、84床中30床を療養型病床とし、慢性的な赤字体質から脱却をはかりました。
 熊本・くわみず病院の大石史弘医師は、「100床規模のセンター病院の今後の方向性」と題して、一般病床を維持しつつ第4次医療法に対応する構想を報 告。周辺の中小医療機関が単科に特化したり、療養型病院となるなかで、くわみず病院のもつ「オールラウンド」な機能を発展させ、2003年度新病院建設を めざしていると報告しました。
 東京・港勤医協の荒木浩司専務は、「法人合同と法人をこえた共同事業の展開」として、都心部小法人が、県連・ブロックの支援を受けながら、保健医療福祉 協同組合に加入し、隣接する千葉勤医協、東京勤医会、健和会とともに「葛西みなみ保健医療福祉センター」の建設をはじめ、共同事業にとりくむ構想を報告。
 青森・健生病院の長谷良志男医師は、「臨床研修指定病院と医療経営構造の転換」として、県内に臨床研修指定病院が4カ所しかなく、弘前大学医学部の学生 の3割しか地元に残らない現状があり、病院の新医療構想の中に、自ら臨床研修指定病院を取得する課題を位置づけ、地域から求められる高齢者医療、救急医療 にとりくむと報告しました。
 北海道勤医協の石山建治副専務は、大規模法人での転換にむけた総合的なとりくみを報告。
 自己完結型であった「センター病院群構想」から「医療連携と地域病院としての発展」に方向を転換するとして、各科グループの拠点を中央病院と札幌病院に おき、臨床研修指定病院の機能を充実させるとともに、4病院の療養・回復期リハビリ病棟へのシフト、有床診の無床化、近接診療所の開設、居宅介護事業の前 進をはかると報告しました。

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川崎問題でナイトセッション

 水戸部副会長は、川崎協同病院で起きた事件についての「内部調査委員会」中間報告を受け、この問題から何を教訓として受け止めるかについて述べました。
 この事件を「特殊な状況のもとでの突発的な事件」と単純にとらえることは適切でないと指摘。事件の背景となった様ざまな要因を検討すると、私たちの法人 や病院で、同じような事件が起きないという保証はなく、このような事件の発生を防止できる何重にも張り巡らされた防御機構が必要ではないかと提起しまし た。
 また、こうした事件が起きた時に「病院・法人の管理者が迅速かつ適切な処理ができる判断力があるか、適切な危機管理ができるのか」と危機管理機構の必要性を強調しました。
 「事件・事故を起こさないためには、一つか二つのポイントを押さえればよいといった対策ではなく『多重安全機構』が必要」として、7点の要件を示し、『多重安全機構』を構成する要素の点検を十分行うことが重要だと述べました。

多重安全機構とは
 ?医師研修では、技術とともに、人権、ヒューマニズムを学び、他の 職員や患者の声を受けとめられる医師を育成すること。?民主的集団医療のしくみが機能し、共同の営みが実質的に成立していること。?医師集団や病院職員 が、終末期医療をはじめとした倫理問題について常に学習し論理的に深め、対応できる能力を身につけていること。?さまざまな現場の問題が病院や法人幹部に リアルに伝わる縦横のシステムがつくられていること。?医師同士が人間的で対等な関係を保ち、カンファレンスや合同回診など、集団的な論議や点検ができる ような場があること。?管理部が職員に対し暖かくも、基準や規則にもとづき、き然とした対応を行いうること。?倫理観と医学知識にもとづく倫理的拒否権の 行使が保障されていること。
 また危機管理の問題について整理し言及しました。

トップの認識と危機管理対応
 事件発生後、3年半も公表がされなかった点について「トップの認識に問題がある」と指摘。事件が起きた時に管理者がとるべき処理と姿勢にふれました。
 判断の最優先課題は「患者の人権」、ついで「徹底した調査」とし、弁護士に相談すること、届け出、再発防止の対策など速やかにすすめるべき初期対応につ いて述べ、危機管理の体制や備えを問いかけました。また法人・病院の管理部が一体となった危機管理が必要、と強調しました。
 しめくくりに、川崎協同病院の再生にむけた改善案として9点を提示(表)。各法人・院所がこの項目にそった自己点検を行うことを呼びかけました。

(民医連新聞2002年07月21日/1282号)

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