医療・福祉関係者のみなさま

2011年8月15日

相談室日誌 連載333 患者の言葉の裏にある本当の気持ちをつかむ 嶺井律子(沖縄)

 沖縄でも寒い二月初旬、七〇代のAさんは、公園で身動きできない状態で発見されました。通りがかりの人が一一九番通報し、当院に救急搬送。腰椎圧迫骨折しており、入院することになりました。
 救急センターから連絡を受けて、Aさんのベッドサイドで面談。Aさんは、終始穏やかな表情を浮かべていましたが、姉の名前以外は、あいまいな返答をして いました。入院治療が必要な状態でしたが、ホームレスだったため、無保険でした。本人の了解をとり、市の生活保護課に急迫保護※を申請しました。
 入院中、Aさんは痛みのためにリハビリに消極的なこと以外は、看護や介護上の問題はないようにみえました。ところが、面談する中で、リハビリ訓練やトイ レに行ったことを忘れるなどの短期記憶障害があることが判明しました。
 状態が落ち着き、退院後の生活について相談すると、「入院前の生活に戻りたい」と希望されました。元の生活とは「公園」です。一五年近くAさんはそこで 過ごしてきました。しかし、野宿生活に戻ることは、高齢のAさんの生命にかかわりかねません。生活保護課から連絡を受けて面会にきた姉を交えて、退院後の 方向性を定めてゆくことにしました。
 Aさんと何度も話をする中で「元気になったら公園に戻る」という発言は、「一人でアパートを借りて生活することへの不安」から出ているものだとわかってきました。
 そこで、介護保険サービスを活用し、施設に入所する方向で退院調整を進めていくことに。そしてAさんはいま、約三カ月の入院を経て、姉の家にほど近い、有料老人ホームで穏やかな生活を始めています。
 今回の事例では、適切な援助を行うためには、相談者の発言に込められた本心や、とらえにくい「生活を営む力」を的確に把握することが重要だと感じました。

※急迫保護…要保護者が急迫した状況にあるときは、保護申請がなくても、必要な保護を行うことができる(生活保護法・第七条)

(民医連新聞 第1506号 2011年8月15日)

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