医療・福祉関係者のみなさま

2011年8月1日

フォーカス 私たちの実践 医療安全対策をすすめよう(1) 根岸京田(全日本民医連医療安全委員長)に聞く 民医連における医療安全の課題

 今号から、医療安全をテーマに月一回の連載を始めます。一回目は、全日本民医連・医療安全委員長の根岸京(けい)田(た)理事(東京健生病院院長)に、民医連の医療安全問題に関するとりくみと課題を聞きました。(安丸雄介記者)

到達と課題

 全日本民医連は二〇〇三年三月以降、定期的に全国規模の医療安全交流集会を開催し、医療安全の推進と「安全文化の醸成」を他団体に先駆けて呼びかけてき ました。各地協や県連レベルでの医療安全推進活動は、相互乗り入れでの安全診断、医療安全交流集会の実施など、この数年間で大きく前進しました。メーリン グリストも活用され、情報交換も盛んに行われるようになっています。
 また、全日本民医連では二〇〇三年三月から「警鐘的事例の収集・分析事業」を行っており、各事業所で発生した教訓的な事例を提出してもらい、医療安全委 員会を拡大したメンバーで分析し、得られた教訓を発信しています。特に重要で緊急を要する事例は、「安全情報」という形で早めに発信するようにしていま す。これまでの事例一〇〇例を『事例から学ぶ医療安全』という冊子にまとめて発行しました。日本医療機能評価機構でも「医療事故情報収集等事業」を行って いますが、私たち自身も収集・分析事業を継続することが、医療安全に関する感性や分析能力を高める上で重要です。
 全ての病院に医療安全委員会が設置され、インシデントレポートを中心とした安全情報収集システムが整備されました。ヒューマンファクターの視点から、エ ラーを個人の問題ではなくシステムの問題としてとらえ、各種対策を講じてマニュアルを整備してきました。これらのとりくみの結果、医療の安全性は確実に向 上し、高濃度のカリウムやキシロカインの静注事故、異形輸血などの重大事故はなくなりました。しかし一方、今までの手法の限界も見えつつあります。昔から 知られる事故、例えば「手術部位の左右間違い」「体腔内ガーゼ遺残」などマニュアルを遵守していれば起こりえないような事故が、同じように発生していま す。これは、医療安全のさらなる推進のためには新たな手法が必要であることを示しています。

前進のためには

ノンテクニカルスキルの7つの柱

1)状況認識(situation awareness)
2)意志決定(decision-making)
3)コミュニケーション(communication)
4)チームワーク(teamwork)
5)リーダーシップ(leadership)
6)ストレス管理(managing stress)
7)疲労への対処(coping with fatigue)

 今回、新たな概念として「ノンテクニカルスキル」を提起しました(右項)。 医療活動は、患者さんを含めたチームで行われます。チームワークの基本はコミュニケーションです。いっしょに仕事をしているチーム内のコミュニケーション を改善し、医療を効率よく進めつつ安全も推進するために何をすべきか、が今後の課題です。「スキル」というからには、評価し研修して身につける方法がある はずです。具体的な事例を多職種でカンファレンスをし、あるシナリオに沿ってロールプレイをするのも良いと思います。医療安全委員会でも検討を進める予定 です。
 医療安全推進活動に医師の参加の推進という課題もあります。警鐘事例の分析によると、医師のエラーは「診断」や「治療」に関わる事が多く、また死亡事故 に直結することも多いのが特徴です。また、医療はチームで行っているといっても「主治医」「術者」など、医師個人の権限や責任が大きい側面もあります。こ のような立場にある医師の医療安全推進活動への参加は決定的に重要です。講習会などへの参加の呼びかけだけでなく、医学教育や卒後研修に医療安全を位置づ ける必要があります。

新たな医療安全問題

 近年、新たな問題に「院内暴力」が浮上しています。患者や家族による暴言・暴力は多くの職員が経験していますが、報告があがることは少なく各個人が我慢していることが多いのが実情です。そのために精神的に傷ついてしまう職員も少なくありません。
 重要なことは、脅迫や暴言・暴力は患者さんの行為であろうと「犯罪」だという認識を持つことです。同時に、その行為の背景に思いを寄せて患者の人権を尊 重する視点で解決を図ることが重要です。そんな場面であってもただ敵対するのではなく、医療は患者・家族との「共同の営み」だといえるところが、私たち民 医連の医療だと思います。
 今後の大きな課題は、病院以外の事業所での医療安全推進活動です。先進的な地協では、診療所や保険薬局、介護施設の安全診断を行っていますが、この活動 を全国に広げていく必要があると思います。また、職員が一対一で患者さんと向き合う職種・部門では、リハビリや訪問看護・介護での現場で安全をどう確保す るかがもう一つの大きな課題です。安全情報の収集、事例分析に基づく安全対策の立案などにとりくんでいきたいと思います。

(民医連新聞 第1505号 2011年8月1日)

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