医療・福祉関係者のみなさま

2011年8月1日

被災地発(4) 除染や子どもの一時避難など被曝低減の大運動を展開 福島県郡山市

 原発事故収束のめどが立たない中、福島県の郡山医療生協と桑野協立病院(郡山市、一二〇床)は、組合員・職員による放射線測定や除染活動、夏休みを利用して一時的に子どもを避難させる「サマーキャンプ」など、被曝低減の具体的な行動を旺盛に進めています。(新井健治記者)

 「雨どいの下は三・一九マイクロシーベルト。やはり、ほかに比べると高いですね」 ―。七月六日、郡山市富田町で、郡山医療生協とみた支部(後藤信弘支部長)が組合員宅の線量を測定しました。庭や窓の下、側溝などを測り、用紙に記録。同 じ宅地内でも雨が集まる場所は高くなります。「具体的な数値を確認して、皆さん初めて冷静になれます」と佐藤敏副支部長。
 福島県の中央に位置する郡山市は福島第一原発から約六〇キロ離れています。同市の平均線量は毎時一マイクロシーベルト前後と一時より下がりましたが、同 じ市内でも線量が高い場所が点在しており、不安な組合員から測定依頼が次々舞い込みます。支部は測定結果を地図に落とし、汚染マップを作る予定です。
 組合員の石川布佐江さん(41)は、八歳、四歳、二歳と三人の子どもがいます。「子どもの内部被曝が心配。ネットで調べても、専門家によって安全基準が 違い混乱します」。石川さんは庭の表土を削り、ヒマワリを植えました。少しでも被曝量を減らすためです。郡山医療生協では、こうした組合員の自主的な活動 が始まっています。

放射能に立ち向かう

 同生協は六月の総代会で「放射能汚染に立ち向かう! 地域まるごと暮らしと健康を 守る大運動プロジェクト」を決定しました。プロジェクト内容は▽生協で線量計を購入し、測定と汚染マップづくり▽表土除去や洗浄など除染活動▽組合員健診 項目に白血球像検査を追加▽ヒマワリを植える▽市外や県外に一時的に避難するサマーキャンプの実施▽放射能を正しく学ぶ学習会の開催、などです。
 プロジェクトには全国の医療生協が協力。届いたヒマワリの種約一五〇キロを、桑野協立病院の患者や組合員に配りました。庄内(山形)、浜北(静岡)、南 (愛知)、さいたま、富山の各医療生協は、七月から始まったサマーキャンプの受け入れをしています。
 桑野協立病院の坪井正夫院長は「今は原発に住民の主権が奪われている状態。私はこの土地で生活し、医療を続けていく。除染活動は主権を取り戻すたたかい です」と言います。坪井院長は「核害の街で生きる」と題し、PTAや町内会で講演しています。
 事故以降、「ここで、子どもを育てて大丈夫?」と職員から不安の声も上がりました。同院は「職員も被災者」と位置づけ、毎日午後五時から職員の声を聞く 時間を設けたり、職場別アンケートを実施。坪井院長は「職員を孤立させない、被曝低減の動きを止めない、この二つの原則が職員の結束を高める」と強調しま す。

早く表土の廃棄場所を

 同院では放射線科職員が講師になり、住民と職員向けに放射能の学習会を開いています。七月の院内学習会では、病院敷地のコンクリートをブラシでこすり、洗浄前後の放射線量を測って、その効果を実証しました。
 職員の中にはセシウムを吸着する性質があるといわれるゼオライトを自宅の庭にまき、放射線量が減るかどうか「実験」を試みる人も出てきました。放射線科 の中里史郎科長は「削った表土の廃棄場所が今後の課題。全国から除染ボランティアを募りたいが、廃棄場所が決まらないと呼びかけることもできない。早く郡 山市がフレームを決めてほしい」と訴えます。
 江川雅人事務長は「原発事故の影響は、この地で暮らす私たちにとって毎日の生活の問題です。だからこそ、今できることを素早く実行することが大切。具体 的な動きをつくることで、行政も政策を立てやすくなるのではないでしょうか」と指摘します。

外遊びできない

 同院職員の子どもを預かる「つくしんぼ保育園」は、震災で建物が崩れたため、今は組合員センターで運営しています。床を張り替え、周囲の表土を削り、屋根を高圧洗浄機で洗うなど放射線量を下げる試みをしてきました。
 鹿又智子園長は「散歩は一日三〇分限定。草花に触れない、土もいじれない、積み上げてきた保育実践ができず、保育士もストレスです」と言います。
 同園は限られた条件の中、病院の元通所リハビリ室にビニールプールを持ち込み、屋内で水遊びをさせています。「子どもたちを被曝からどのように守るのか、日々悩みながら保育しています」と鹿又園長。
 郡山医療生協の宮田育治専務は「見えない敵=放射能に立ち向かうには、線量測定など“見える化”が有効です。放射能との長いたたかいが始まりました。サ マーキャンプ中の職員体制など、医療福祉生協連や民医連に支援を要請しています」と話しました。

(民医連新聞 第1505号 2011年8月1日)

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