医療・福祉関係者のみなさま

2011年6月20日

フォーカス 私たちの実践 「歯もみ」の効果を検証 東京・相互歯科 歯磨き剤を使わず「ながら磨き」 やさしい方法で歯周病改善

 第一九回歯科学術・運動交流集会での発表を紹介します。今回は「歯もみ」の方法と効果について、東京・相互歯科の歯科衛生士の相曽(あいそ)訓子さんの報告です。

 「歯もみ」とは、当院が取り入れている歯周病治療のためのブラッシング方法です。歯もみの特徴は、(1)歯磨き剤を使わない、(2)一日一回は二〇分以上磨く、(3)柔らかめの歯ブラシでやさしく磨く、(4)出てくる唾液は飲み込む、というものです。
 この方法では、座って、テレビなどを見ながら磨くことができます。また、歯の汚れが落ちていないのに歯磨き剤の清涼剤でさっぱりしたと勘違いしたり、研 磨剤で歯の表面まで削ってしまうことも防げる利点があります。口の中の歯垢などは唾液とともに飲み込んでも体に全く害はありません。
 当院の歯科医師、歯科衛生士は全員がこの歯もみでブラッシング指導を行っています。

「歯もみ点数」で効果を検証

BOP検査

 先端に目盛りがついた器具を、歯周ポケットに何カ所か挿入し、出血の有無によって病態(歯周ポケット底部の炎症)を評価。出血が見られた箇所の割合が、一五%未満なら「病態が安定している」と評価します。

 この歯もみ効果を検証しました。(1)~(4)の動作一つにつき一点で計算し、四点を満点とする「歯もみ点数」を考案。BOP検査(右参照)の数値で病態評価し、「歯もみ点数」による療養評価との相関性を見ました。同時に、喫煙やストレス、糖尿病など病態に影響する全身的因子と、生活保護受給・無職など生活環境の関係も調査しています(※下リスクファクター調査項目参照)。
 検証の結果、歯もみをきちんと行っていても患者にストレスがあると良い結果が出ないことが分かりました。BOP数値はある程度改善しますが、ストレスが 多いと「病態安定(=一五%未満)」になることは難しいと考えられます。
 また、歯もみで改善が見られないグループには、経済的に不利な条件をもつ人が多くいました。高齢や独居という条件の影響も考えられました。歯もみ効果が 出る条件には、良い生活環境や経済的安定も必要だと分かりました。
 次に検証方法と結果の詳細を紹介します。

shinbun_1502_01

病態・療養評価でグループ化

 指導前と指導後のBOP検査の数値を「一五%未満」と「一五%以上」の病態評価で分類したうえで、歯もみ点数の療養評価でA~Hの八グループに分類しました(左表参照)。
 (A・B)…検査結果が指導前後ともに「一五%未満」と病態が安定しているグループでは、歯もみ点数に関係なく良好でした。
 (C・D)…指導前より指導後に検査結果が悪化したグループは、歯もみ四点が三人(二五%)、三点以下が八人(七五%)で、十分に歯もみができていないと分かりました。
 (E・F)…指導前に「一五%以上」だが、 指導後の検査が「一五%未満」で改善したグループは、歯もみ四点が三一人(三四%)、三点以下が六〇人(六六%)でした。歯もみが実行できている人の割合 が高め。このうち、改善が著しかったEグループの特徴を調べました。ほかのグループに比べて生活環境が良好で、生活保護受給、失業、一人親などといった経 済的に不利な条件にある人が少ないことが分かりました(統計的に有意)。
 (G・H)…一方、指導前も指導後の検査でも「一五%以上」だった人は、歯もみ点数四点が一六人(Gグループ)、三点以下は四四人(Hグループ)でした。そのうち、歯もみ四点満点のGグループは、「ストレス有り」の比率が高い傾向でした(ただし統計的有意差はなし)。他方、三点以下は六〇歳以上の高齢者が六○%と多く、独居が三五%でした(Hグループ)

今後の援助は

 これらの検証結果から考察すると、今後私たちにできる療養の援助は、通院患者 の歯もみ指導だけでなく患者の自宅を訪問して歯もみ指導を行うなど、生活環境への目配りや助言などではないかと考えられます。病態や療養に変化が見られな かった人たちの病状も改善できるかもしれません。

※リスクファクター調査項目

■全身的要因
(1)動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳梗塞・高血圧)
(2)糖尿病、(3)喫煙、(4)精神疾患
■生活環境に関わるリスク要因
(5)ストレス(仕事・孤独・一人暮らし・身寄りなし・介護)、(6)生活保護受給、(7)国保世帯
(8)無職・不安定収入・病欠
(9)一人親・リストラ・求職中など

(民医連新聞 第1502号 2011年6月20日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ