医療・福祉関係者のみなさま

2011年6月6日

シンポジウム 原発・核兵器私たちの未来(3) 東電がひた隠す 核種や汚染水のデータ 野口邦和・日大講師の発言

 四月一一日のシンポジウムから、最後に日大専任講師(放射線防護学)の野口邦和さんの発言を紹介します。

暫定規制値は「がまん線量」

 野菜、水、土壌の放射能汚染が問題になっています。漏れた放射性物質が大気中を漂って重力や雨で落ち、土壌や川、野菜を汚染しており、政府は暫定規制値を決めて監視しています。
 メディアは暫定規制値について、「安全基準」との言い方をしています。そもそも安全な線量というものはありません。被曝線量は低ければ低いほどよく、暫 定規制値は「ここまで、できれば我慢してください」という値です。この被曝ぐらいは我慢していただかないと、食べるものがなくなってしまう「がまん線量」 「仕方がない線量」みたいなものです。暫定規制値以下でも、被曝線量は低いものを選んで食べたほうがいい。
 原乳はヨウ素とセシウムで汚染されたものが半々ぐらいです。セシウムは半減期が三〇年と長いため、廃棄するほかありません。ただ、ヨウ素は半減期が八日 です。ヨウ素だけで汚染された原乳は、八〇日も経てば放射能はほとんどなくなります。生乳として飲むことはできなくても、捨てることはありません。バター やチーズに加工すれば利用可能です。行政としてはそのあたりで、もっときめ細かな対応ができるはずです。
 野菜の対応についても同じです。当初は県ごとに被曝線量を発表していました。批判を浴びて地域ごとの表示に変えました。細かく対応するほど大変なので、 行政はやりたくはないわけですが、国民が要求すれば行政の質は変わります。「きちんときめ細かい対応をしてほしい」と、声を大にして叫ぶ必要があるのでは ないでしょうか。

とんでもない被曝線量の引き上げ

 海洋汚染の問題ですが、当初はヨウ素131、セシウム137、セシウム134の三 核種以外にも、コバルト58、ヨウ素132、セシウム136など測定されたものは発表していました。三月二五日にはバリウム140も見つかったと報告して います。いまだにホームページを見ると載っています。
 ところが、三月三〇日の採取試料を最後に、三核種のみの発表に変わってしまいました。理由はわかりません。ただ、四月一日にあるテレビ番組で、「バリウ ム140は本来燃料棒の中に閉じこめられているもので、これが測定されたということは、燃料棒がばらばらになって水に溶けたことが考えられる」と話しまし た。いわゆるメルトダウンの可能性を指摘したわけです。
 それが理由かどうかわかりませんが、以降は三つの核種以外はまったく出さなくなりました。いまだに出ていません。陸上の放射性物質についてもこの三つだ けです。データを隠しているわけで、非常に問題です。
 原発の汚染水についても、データを発表していません。政府は原発の低レベル廃水一万一五〇〇トンを排出しました。高レベル廃水を確保する場所がないの で、低レベル廃水を海に捨てたわけですが、この汚染水の濃度は一切、発表していません。「低レベル、低レベル」と東電が言っているだけ。高レベルに比べれ ば低レベルかもしれないが、濃度と種類を発表しないで、そんなことは通用しません。
 また、原発事故作業者の被曝線量の上限は、全身で一〇〇ミリシーベルト、眼の水晶体は三〇〇ミリシーベルト、皮膚は一シーベルトと法律で決まっていまし た。ところが三月一四日午後、首相官邸の要請で厚生労働省と経済産業省が相談をし、同日夕方までに一〇〇ミリシーベルトの全身上限値を二五〇ミリシーベル トに引き上げてしまいました。
 被曝量を増やさないと作業者が働けないとの判断ですが、この法改正は大変乱暴なやり方です。変えるのではあれば、議論なり慎重な検討がなされた上で変え るべきです。法治国家でありながら、とんでもないことをやったわけです。

(民医連新聞 第1501号 2011年6月6日)

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