医療・福祉関係者のみなさま

2011年5月2日

相談室日誌 連載326 認知症患者の権利擁護とは 河原 怜子(熊本)

  Aさん(七〇代男性)は町営住宅に一人暮らし。所持金がほとんどなく、「お金を貸してほしい、仕事をしたい」と社会福祉協議会(以下、社協)に相談。しか し物忘れがあり、仕事ができる状態ではなく、社協が実施している地域福祉権利擁護事業で支援を受けました。その支援をきっかけに、アルコールを多量に飲酒 していること、多額の借金があることがわかりました。Aさんは、借金返済のため経済的に厳しい生活を送っていたのです。年金額が生活保護より多かったので 生活保護の申請は却下されました。
 その後、物忘れが目立ったことから当院を受診。医療費の支払いが困難であったため、無料低額診療事業を適用しました。数日後、「認知症」と診断され、当院に入院しました。
 Aさんの問題解決には、自己破産手続きが必要でした。しかしAさんは理解力、判断能力の低下があり、「借金は覚えがない」と話し、そのままでは解決しま せんでした。「成年後見制度」※が必要と判断し、家族に申立てを依頼しました。家族はAさんとは疎遠になっていましたが、関係機関からの働きかけもあり、 申立人になることに同意。成年後見人は第三者がなりました。今は、後見人が自己破産の手続きをすすめています。
 Aさんは今後についてを「雇ってもらえるなら、また仕事に復帰したい」と希望しています。しかしAさんは、短期記憶が低下し、会った時には、前回話した 内容を忘れている状態です。そのため、仕事はおろか一人暮らしに戻るのも困難であり、今後の支援は施設入所の方向で検討をしていく予定です。
 Aさんのように認知症のため判断能力が低下している人は少なくありません。このようなケースには、家族や関係機関の協力を得ながら、最善の援助を考え支 援しています。一方、本人の同意を得ることができない状態で支援をすすめることにSW自身が不安を感じることもあります。これからも、常に当事者の立場に 立ち、自己実現や権利を守る視点を忘れずに支援をしていきたいと思います。

【成年後見制度】認知症などのため、判断能力が低下している人の権利を守るために、財産管理や介護サービスの契約など、法律行為を第三者(後見人)が代理できる制度です。

(民医連新聞 第1499号 2011年5月2日)

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