医療・福祉関係者のみなさま

2011年2月7日

TPP(環太平洋連携協定)が招く弱肉強食社会 食料自給率13% 医療・介護に競争原理

 昨年一〇月に政府が突然、参加を表明したTPP(環太平洋連携協定※1)は、例外なしに関税を撤廃する貿易協定です。「安い農産 物の流入で農家が壊滅的な打撃を受ける」と農協をはじめ反対意見が噴出。さらに、医療、金融、教育など生活にかかわるあらゆる分野が市場化・営利化の波に さらされます。菅直人首相は「六月に参加の是非について結論を出す」としています。TPPの危険性について検証しました。

 農林水産省は昨年一〇月、日本がTPPに参加した場合、食料自給率(熱量ベース)が四〇%から一三%に減少し(表1)、三五〇万人の雇用が失われると試算しました。日本の自給率は国際的に極めて低い水準です(図1)。既に国内の農家はあい次ぐ減反や牛肉・オレンジの輸入自由化で疲弊しており、これ以上海外から安い農産物が入ってくれば、大きなダメージを受けます。
 最近の異常気象で農産物の値段は高騰しています(図2)。ただでさえ低い自給率をこれ以上下げては、安定した食料を確保することが危ぶまれます。輸入食品に含まれる添加物や農薬の安全性も問題です。
 ことは農業にかぎりません。現代の貿易には物品に限らず、金融・保険・通信・運輸・教育・娯楽などサービス業務が含まれます。サービス貿易の自由化は、 必然的に労働力の移動と資本の移動の規制緩和につながります。
 一月二四日に東京で行われた緊急学習会で、横浜国立大学経済学部教授の萩原伸次郎さんは「規制改革と称して、医療をはじめさまざまなサービス部門がグローバルな競争にさらされる」と指摘しました。

一部大企業が大もうけ

 TPP参加で、農産物以外にもあらゆる外国製品が流入してきます。中小企業は厳しい競争にさらされ、自動車や電化製品など輸出中心の大企業だけが莫大な利益を上げることになります。
 前原誠司外相は「GDPにおける第一次産業の割合は一・五%。これを守るために九八・五%が犠牲になっていいのか」と発言しました。これは現状認識が 誤っているか、一部の輸出大企業の利益を擁護する意図的な発言としか考えられません。
 第一次産業のGDP比率が低いのは、先進国共通です(米国は一・一%)。むしろ、低い比率で食料自給率四〇%を維持している重要性を認識すべきでしょう。
 萩原教授は「マスコミは国民と農業の対立をあおるが、まったく的外れ。実際は一部の大企業と、中小企業やサービス産業を含めた私たちの暮らしのどちらを優先するかの問題」と指摘します。

ルールなき社会を加速

 日本は一九九〇年代以降、労働者派遣法の改正をはじめ、さまざまな分野で規制緩和 をすすめてきました。働き方など一定のルールが必要な分野まで自由化してしまった結果、ワーキングプアの増大、若者の就職難など問題が噴出しています。 TPPの「例外なき関税撤廃」は、こうした「ルールなき社会」の動きを加速します。
 規制緩和は公的な責任を放棄し、市場の自由に任せる小泉構造改革と一体のものです。一月二四日に開会した「社会保障国会」で論議される新しい高齢者医療 制度案や介護保険見直し法案は、財政難を理由にいずれも社会保障の公的責任を狭め、国民に「自己責任」を押しつけるものです。
 菅首相はTPP参加の結論を出す六月と同時期に、消費税増税を念頭に置いた社会保障改革の全体像を示す方針です。法人税減税をいち早く実施する一方で、 消費税を増税し農業や中小企業を切り捨てる姿勢は、民主党政権が大企業の利益を第一とする財界中心の政治に回帰したことを如実に示すものです。

止めようTPP

 日本医師会は昨年一二月、「TPP参加によって、日本の医療に市場原理主義がもち込まれ、最終的に国民皆保険の崩壊につながりかねない」と重大な懸念を表明。全日本民医連も「日本の医療・介護にいっそうの市場化・営利化をもたらす」と反対声明を発表しています(※2)。
 全日本民医連の吉田万三副会長は、「TPPに参加すれば、日本の皆保険制度がアメリカ型の医療に変質していく。米国では保険会社が医療の主導権を握って おり、患者にお金があるなしで診療に制限が加えられているのが現実だ」と警告します。
 TPP参加をやめさせることは、医療と介護をはじめ国民の暮らしを守り、社会保障の後退を止める運動にほかなりません。農業のみならず中小企業やあらゆ る業種とともに、TPPの問題点を明らかにし、政府の姿勢を変える運動が必要です。

※1
TPPとは

 環太平洋連携協定(Trans-Pacific  Partnership)。英語の頭文字をとってTPPという。第4条に「すべての品目の関税を撤廃する」とあり、自由化レベルの非常に高い貿易協定。 2006年にシンガポール・ブルネイ・ニュージーランド・チリの4カ国が協定を結び、ここに米国・マレーシア・ベトナム・オーストラリア・ペルーの5カ国 が加わって交渉中で、米国がアジアへの影響力を強める構図になっている。

※2
医療・介護への影響

 昨年11月に閣議決定された「包括的経済連携に関する基本方針」によ れば、「看護師・介護福祉士等の海外からの移動」「国を開き、海外の優れた経営資源を取り込む」ことを今年6月までに策定し、「国内の環境整備を急速に進 める」としている。アメリカの年次要望書を併せて読むと、つまりは、混合診療の全面解禁、公的医療保険給付の縮小、医療ツーリズムの推進、医療への株式会 社の参入などが内容となる。国民皆保険と地域医療の崩壊につながる深刻な影響をもたらすとして、日本医師会は「懸念」を表明し、全日本民医連は「反対」を 表明した。

shinbun_1493_01ターゲットは「米」 日本の主食が危機に

 日本の農産物の関税率はすでに低く(11.7%)、「日本の農業は鎖国状態」との 論説は誤り。しかし、米は重要品目として守ってきた。アメリカの最大の関心は米で、「食糧は世界をコントロールする武器」との戦略がある。アメリカは1俵 (60kg)1万6000円の米を3000円で売るために、農家に1万3000円を補填している。「日本の農業は過保護」との論説も誤りで保護水準が低す ぎる。「日本の美味しい米には競争力がある」との報道もあるが、米の輸出額は0.05%にすぎない。

人口と穀物自給率の関係 日本は最悪

 日本の穀物自給率(25%)はOECD30カ国中26番目と低位のうえ、約1憶 3000万人の人口を抱える。同じく自給率低位の韓国は人口が日本の1/3、オランダは1/8、ポルトガルは1/13。日本は人口が多いうえ食糧を海外に 依存しており、ひとたび非常事態が起きれば調達は著しく困難になる。

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再び高騰する穀物価格

 2008年の高騰はトウモロコシなど投機マネーの操作が主因だったが、2010年の高騰は災害による不作が主因だった。世界が穀物不足なのにTPP参加で農業を潰すのは大問題

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(民医連新聞 第1493号 2011年2月7日)

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