医療・福祉関係者のみなさま

2010年12月6日

介護 「自己責任」でなく「社会でささえる」 ――利用者・家族置き去りの制度見直しはダメ!

 二 〇一一年に法改定を控えた介護保険制度。厚生労働省の制度見直し案も出てきました。「給付抑制」「利用者負担増」を中心とした内容で、利用者や家族、介護 職や事業所などが求めてきた改善内容とはかけ離れています。介護保険導入の合言葉は「介護は社会でささえよう」でした。これを実現するために必要な見直し は? 民医連の介護現場から寄せられた事例が示しています。

「介護保険10年」検証事例調査

全日本民医連が発表

 全日本民医連は、一一月一九日、「『介護保険一〇年』検証事例調査」を発表しました。現在の介護保険制度のもとで必要な介護が受けられない困難事例が生じています。その事例から、利用者・家族にとって制度をどう改善すべきか、課題を明らかにしようというねらいです。
 記者会見で全日本民医連の林泰則次長(介護福祉部)は、「介護保険制度の見直しも最終盤だが、財政優先で利用者が置き去りになっている。この動きに一石を投じたい」と、話しました。
 検証したのは、民医連に加盟する介護事業所から集まった利用者や家族の困難事例・四二〇例です。

  まず、「貧困」と「高齢化」というキーワードで事例をまとめると、次のような特徴がありました。
 【貧困】介護以前に、生活自体がたちゆかない、という報告が多数でした。子や孫と年金だけで生活している世帯も。
 「経管栄養、腸ろう、インスリン注射、在宅酸素など重度の医学管理が必要だが、療養型病床への転院は経済的理由でできない。息子が失業、月一三万円の両 親の年金で一家三人が生活(七〇代・要介護5)」、「収入は月二万円の年金だけ、という一〇四歳。生活費や介護を八〇代の甥が担っている(要介護4)」
 ケアプランは利用料が払える範囲でつくってもらう人も。「月一万円以内の利用料ですむ介護サービスに、とケアマネに要望し、必要な介護も削っている(七〇代・要介護5)」などのケースがありました。
 また、保険料滞納者への「制裁措置」でサービスが受けられなくなったという報告も目立ちました。滞納者の多くが、低年金や無年金です。
 これらの背景にあるのは、高齢者全体の貧困です。六五歳以上の国民の六割が非課税世帯で、収入が生活保護基準以下の人が二割強(女性の一人暮らしの場合は五割)です(国民生活基礎調査)。
 【高齢化】これから増えてゆく高齢者の独居や老老世帯の困難についても検討しました。
 「病気がちな妻に介護されている七七歳が、自分で入院先を探しに出た途中で倒れて死亡。同居家族がいるので生活援助が受けられなかった(要介護3)」、 「認知症の七〇代独居女性。夜間の突発的な体調不良に限度額の枠内では対応できす、グループホームの受け入れ枠もない(要介護4)」などの事例が多数。
 高齢者の場合、介護度が軽くても、日常生活が大変で、生活援助が必要です。

浮かんだ制度の問題は―

 四二〇の事例から浮かんだ介護保険の問題点は、次の八つでした。
[負担]費用負担が重く、必要なサービスが受けられない
[認定]認定結果が実状に合わない
[限度額]支給限度額の範囲で、十分なサービスを利用できない
[軽度]予防給付、福祉用具利用の制限で、軽度者が必要なサービスが受けられない
[ローカル・ルール]保険者(市区町村)が独自に法令解釈し、一律に利用を制限することが横行
[基盤整備]在宅生活の継続が難しいが、受け入れ施設がみつからない
[医療]痰の吸引などの医療処置が必要な要介護者の受け入れ先が見つからない
[認知症]重度の認知症の介護者は、深刻な困難を抱えている

  会見ではあわせて、待機者の調査も紹介。民医連の特養ホーム待機者四四五二人の三分の一が在宅で待機し、一年以上待ちが約七割、三年以上が三割近くでした (二〇一〇年二月末時点)。これは全国で四二万人にも及ぶ待機者の一端。施設整備の遅れも大きな課題であることを示しています。

【調査概要】

報   告:

29都道府県 180事業所から

集約期間:

2010年5~9月末

年齢構成:

75歳以上が73.6%
40~64歳は11.0%

男女構成:

男性43.6%(183人)
女性56.4%(237人)

家族構成:

独居世帯36.9%
老々世帯18.8%

要介護度:

介護1以下(軽度)27.6%
介護4、5(重度)40.3%
要支援1、2(予防)12.6%


保険料アップ 2割負担 給付抑制

…公費で支える発想なく

【解説】政府の改正方向は?

 介護保険制度の次の改正は二〇一二年です。社会保障審議会介護保険部会の答申を受け、二〇一一年国会に改正法案が提出され、一二年四月施行、という日程ですすんでいます。
 一一月一九日の審議会の最終報告書の素案では、利用者負担増や給付抑制が盛り込まれました。
 示されたのは、一定以上の所得がある人の自己負担二割化、ケアプランの有料化、要支援や軽度の要介護者のサービスは「効率化」の名目で保険給付を縮小す るなどの内容。また施設では、入所者の居住費「補足給付」の抑制や、多床室の入居者からも新たに室料徴収する案も。
 論拠は、一二~一四年度の介護保険料が月平均五〇〇〇円を超す(現在四一六〇円)見込みで、「保険料の抑制には負担と給付の見直しが必要」というものです。
 ちなみに、厚労省が募集した「介護保険への国民の意見」の中で「費用負担」について回答の選択肢は「サービスの維持・充実の保険料値上げ」か「保険料据 え置きでサービスを削る」かの二者択一で、公費でささえる発想はありません。

■地域包括ケア構想

 法改正とあわせ、出されている目玉が「地域包括ケア」構想。高齢者人口が激増する二〇二五 年をめざし、介護のあり方をのべたものです。「二四時間三六五日の医療や介護、生活支援を受けながら、住み慣れた地域で暮らし続けていける体制をつくる」 というものです。国民に歓迎される側面がある一方で、重大な問題が。介護現場で発生している困難や、それを生んでいる介護保険制度の問題の検証はいっさい なく、財政的裏付けがありません。利用者負担と「どこかを削って収支を合わせる=ペイ・アズ・ユー・ゴー」というのでは、机上の空論になりかねません。
 また、この構想の「基本理念」も大問題で、自己責任を優先し、公的責任が後退。自費部分が拡大すれば、低所得者がさらに介護から排除されてしまいます。

 今回の見直しには、かつてなく財界の意向が反映されたのも特徴。菅政権の「新成長戦略」は介護を「産業」と位置づけ、経済産業省は「公的保険の依存からの脱却」を要求(「産業構造ビジョン」)しています。

(民医連新聞 第1489号 2010年12月6日)

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