医療・福祉関係者のみなさま

2010年1月4日

民医連綱領 実践の中でバージョンアップ

 いま議論中の民医連綱領「改定案」は「人権」「憲法の理念」「連携」など新しいキーワードを盛り込み、バージョンアップをめざしています。昨冬の「年越し派遣村」以来、各地で展開されている「貧困・格差に立ち向かう」さまざまな活動は、まさに綱領の実践です。

青年医師 先頭に街頭で相談会

東京・大田病院

 「病院を飛び出し、街頭に出よう」。東京・大田病院が毎月行う「無料健康相談会」は、若い医師たちの思いから出発した自主活動です。実行委員会は毎週、医局で行われ、多職種の青年職員たちが集まります。先輩医師たちも見守り、相談会にも参加しています。
 昨冬の「年越し派遣村」には、同院の青年医師たちも駆けつけました。そこから「貧困で医療も受けられない社会は健全とは言えない。働くひとびとの命と健 康を守る医療者として、治さなければならない社会の病」との思いを強くしました。相談会では、同院の無料低額診療も紹介しています。
 一二月一三日午後、蒲田(かまた)駅前。安いネットカフェが多く、派遣労働者が集まり、路上生活者も多いところです。「病院にかかれない、健康に不安が ある方、お立ち寄りください。医師・歯科医師・看護師・薬剤師が相談に乗ります」というマイクでの呼びかけで机の前はいっぱいになりました。血圧を測って 驚く高齢者、医師の話にうなずく若者、ほっとした笑顔で帰る女性、外国人…。
 目の周りを腫らした男性が現れました。「住所がないから、いま酒も飲んでるから」と遠慮するのを看護師が引き留めました。男性(60)は「そこの商店街 に段ボールを敷いて寝ている。転んだ」と見せた脚はパンパンに腫れています。手や顔にもむくみが…。担当した小西潤医師は「よく検査して身体を治して、今 後のことを考えようよ」と話しかけました。「いいんだ」と繰り返す男性。「何で迷ってるの? お酒飲めないから?」…説得する小西医師。無料低額診療のパ ンフを渡し「決心」を待つことになりました。
 この日参加した医師は五人。高岡直子さん(大田病院附属大森東診療所長)は「血圧が高い人が多かった。更年期障害、無月経、子宮がんを心配する女性も来 た」。鈴木陽介さん(一年目研修医)は「仕事で病院にかかる暇がないという人が多かった。六時から二二時までバイト、月に五日しか休みがないという五〇代 の男性もいた。仕事がきつく健康のことが後回しになっていると思えた」と話しました。(小林裕子記者)

〈緊急アピール〉

全日本民医連は「全ての県連、法人、事業所、なかでも民医連医師集団で『綱領改定案』を正面から議論し尽くすことを呼びかけます」を会長名で発表し、二月の次期総会で新綱領を確定しようと呼びかけました。

 

“綱領”改定こう思う ―――●

高岡直子さん(医師)
 …言葉に力があり、診療の前に読み合わせして、清すがしい気持ちになって力が湧いてくるような、優しい言葉の綱領を望みます。

鈴木陽介さん(医師)
 …綱領で重要なのは、誰もが必要な医療を受けられるよう活動すること。外に出ることが必要だと思います。病院に来ることが困難な人のため相談会などは大事です。

吉田心一さん(歯科医師)
 …綱領はどう使うか(実践するか)がメイン。僕らの仕事だから現場でがんばりたい。相談会をする理由は「原点に戻って社会運動をしたい」という衝動か な? 病気を起こす社会があって、運動なしに救えない人たちがいますから。

細田悟さん(医局長)
 …社会保障の費用負担は「応能負担」が原則です。日本国憲法が決めているのは、税を能力に応じて負担し、生存のために分配すること。これが憲法の定めた 「平等」の真の意味です。憲法を掲げる新しい綱領には、ぜひそのことを記載してほしいと思います。

田村直さん(院長)
 …当院が困難になったときに、「あらためて綱領を読み直そう」と全員に配って学習しました。自分たちがめざすものを確認すると力が出せます。新しい綱領 は二〇~三〇代の人に理解されることが一番大事です。自分のものとして、長く掲げていけるものがいいですね。

キーワードは人権


訪問や支援の経験を困難事例集に

北海道民医連

 「格差と貧困」が広がり、日常診療の中でも、命にかかわる深刻な実態に出あいました。県連で は、実態をさらにつかむため、「もっと足を運ぼう」と、友の会と共同した訪問や相談活動を呼びかけました。困難事例が次つぎ報告されます。これを『事例集 このままでは生きていけない』にまとめ、職員や友の会員で共有し、マスコミ、国会議員、諸団体などにも送付し、社会的に告発してきました。
 『事例集』には「国民健康保険死亡事例」「寒冷地在宅患者・利用者生活調査結果」なども加え、この一年で七号まで発行しています。当事者の協力も得て、DVD「困難に寄り添う北海道民医連の活動」も作成しました。

『事例集』から
●月2万円の年金、医療費も払えない
●4年間お風呂に入っていない
●給食が一日で唯一の食事という小学生
●失業し「出産一時金も生活費に」
●極寒の車中生活2週間(雇い止めで)
●若い兄弟が放浪の末、病院待合室に
●やっと就職、解雇を恐れ虫垂炎ガマン
●国保証なく受診した時「余命半年」
●所持金400円。水は公園の水道で
●「公衆トイレ暮らし」24歳を職員救う
●病気なのに「働け」と生活保護切られ
●家の壁をはがし、燃料にし冬を過ごす
●凍える部屋で布団に潜る要介護4女性
●全盲夫が妻を介護(認認・老老介護も)

 訪問行動は職場でも話題になり、『事例集』やDVDを使った学習会で民医連への確信が広がっています。「民医連の役割は何か」「忙しいけれど地域へ」 「社会をよくしたい」など話し合われ、時間を工夫して「全職員が訪問行動に出よう」と事業所ごとに活動を強め、友の会員と共同したとりくみも広がっていま す。訪問すると「がんばって」と激励も受けます。昨年の「共同組織月間」では三万六〇〇〇件を訪問しました。
 各地域の事業所がホームレス支援 SOSネットに加わり、他団体との連携も広がりました。「相談マップ」やポスターを市役所やスーパーなどに置いたり、掲示もしています。友の会員や民生委 員からの紹介もあり、相談事例も急増しています。日中、待合室で寝ている人に声をかけたら、ホームレスだったということもありました。県連ではさらに「人 権のアンテナを高く掲げて、訪問、相談・支援を」と呼びかけています。
いま「民医連綱領」改定の議論がされています。現代に広がる貧困や人権侵害に対して、生存権、幸福追求権が保障されなければなりません。誰もが安心して健 康で暮らせる世の中をめざすとりくみの中で、綱領の意義をさらに深めていきたいと思います。
(沢野天・事務局員)

緊急一時宿泊施設 市の事業受託で充実
岡山・水島協同病院

 〇九年四月、倉敷医療生協と同労組が発起人になり「労働・生活相談センター」を立ち上げました。
 住居付き空き店舗を借り、「ほっとできる空間、憲法二五条を守る場所に」と「ほっとスペース25」と名づけ、一階を相談センター、二階を緊急の一時「宿泊施設」に、職員OBがボランティア相談員として常駐しました。
 相談は朝九時~夕方四時まで、宿泊は食事つきで利用は原則二週間、その間に生活保護や住居の確保などすすめます。毎月二〇件ほどの相談があり、宿泊施設の新規利用者は月二~八人います。
 三〇代男性は〇八年一二月に派遣切りされ、寮を出ました。二カ月間ネットカフェや公園で過ごし、所持金が尽きました。新聞で「ほっとスペース」を知り、 当院に来て職員に声をかけられました。この人は、雇い止めされた四〇代男性二人とともに、解雇撤回のたたかいに立ち上がりました。
 相談内容は「仕事がない」と「住居がない」が多数です。厚労省の通達(三月)をバネに対市交渉し、住所不定でも生活保護の申請を認めさせました。これま でに相談者のうち七人が、生活保護を受給し新生活をスタート。また離職者向けに市営住宅が緊急募集され、二人が入居しました。
 この間、野宿者を対象に「夜回りパトロール」を月二回、定期的に行い、食糧を手渡し、対話しています。多職種や学生、他団体の司法書士、社会福祉士など の協力と連帯が広がっています。青年たちが自ら行動し、路上生活を脱した人も「今度は自分が役立ちたい」と参加してきます。支援物資やカンパも多数寄せら れます。
 昨年一二月、倉敷市が始めた緊急一時宿泊事業を「ほっとスペース25」が受託。活動内容が充実しました。国が全額負担する雇用対策の一つです。
 「住居」の確保はいのちと人権の問題です。職員、組合員、地域の輪をつなぐ「いのちの砦」として民医連が存在感を示しました。憲法二五条を高く掲げる 「民医連綱領」のバージョンアップで、実践力を強めていけると思います。
(志賀雅子・SW)

(民医連新聞 第1467号 2010年1月4日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ