民医連新聞

2002年6月11日

健康増進法についての見解

全日本民医連副会長 水戸部秀利

 小泉内閣は3月1日健康増進法案を閣議決定し、高齢者の定率負担や健保本人三割負担を盛り込んだ健康保険法等 「改正」案とセットで国会に上程しました。本法については平成13(2001)年9月に発表された医療制度改革試案の中で「『保健医療システムの改革』と して健康づくり、疾病予防の推進として?健康日本21の推進、?健康教育の推進、情報提供の徹底等、?生涯を通じた保健事業の一体的推進、?基盤整備を内 容とする健康増進法(仮称)の制定など法的基盤の整備を含め、その推進方策を検討する」とされており、今回の健康増進法案は、医療制度改革試案を具体化し たものです。すでに私たちは健康日本21に対する見解を表明しましたが、以下に本法案の問題点を指摘し、憲法25条を踏まえた法案となるような抜本的な改 定を求めるものです。
 (1)本法案は第1条から第6条で本法案の制定趣旨、目的、国民の責務、国・地方公共団体の責務、健康増進事業実施者の責務等を規定しています。第3条 国の責務を第2条国民の責務の後に起き、国民の責務では憲法25条で規定されている「国民の健康権」は全く無視されています。国民の健康問題については労 働の問題、生活背景の問題、環境問題、国民の間に存在する健康格差の問題は無視され、「生活習慣」の問題に矮小化されています。また、国民の責務として 「自らの健康状態の自覚と健康増進を努めなければ」ならず、「健康自己責任」を要求しています。一方、国の責務として「知識の普及、…情報の収集、整理、 分析および提供…研究の推進…人材の養成…技術的援助を与えること」とされ極めて限定的なもので、国の社会保障に対する公的責任が欠如しているといっても 過言ではありません。
 (2)第九条(健康診査の実施等に関する指針)では、「厚生労働大臣は…健康増進事業実施者に対する健康診査の実施等に関する指針を定めるものとする」 とされていますが、本法案附則に規定されている健康保険法、国民健康保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、学校 保健法、母子保健法、労働安全衛生法、老人保健法の一部改正により、これらの法律に基づく保健事業がこの「指針」と「調和が保たれたものでなければならな い」とされています。ここには現在行われている保健予防事業の国による一元的管理、国民の健康への国家統制へとつながる危険性があるといえます。
 (3)本法案により栄養改善法は廃止されるとなっていますが、栄養改善法にあった「栄養摂取と経済負担との関係等を明らかにするため」という国民栄養調 査の目的が第10条(国民健康・栄養調査の実施)では削除されています。国民負担の問題を明確にすることを避け、健康を国民の「自立自助」にゆだねようと しています。
 (4)第25条(受動喫煙の防止)は、受動喫煙の防止の努力規定であり、喫煙の害についての表示義務、たばこの自動販売機の制限、たばこの広告規制など の喫煙人口の減少や、分煙の推進を計る喫煙室の設置などの具体的な措置の実施などは盛り込まれておらず、実効あるものかは疑わしいものです。
 WHO憲章前文では「到達しうる最高水準の健康を享受することは、…経済的または社会的条件によらず万民の有する基本的権利の一つである」とされていま す。世界の健康戦略の流れの今日的到達点は、?健康における不平等の解消(ヘルス・フォー・オール)、?人びとが自らの健康問題を認識し、健康を管理する 能力、そのための手段、権限が高められていくこと、?社会の様ざまな部門の共同、?コミュニティ参加、?生活や労働の場で接近できるプライマリーヘルスケ アに重点を置いた健康ケア、?国際共同(WHO健康都市プロジェクト)です。こうした国際的な健康戦略の到達点を踏まえるとともに、憲法25条の国民の権 利としての健康に則った健康増進法の制定を求めるものです。

2005年5月1日

(民医連新聞2002年06月11日/1278号)

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