民医連新聞

2006年7月3日

看護師増員運動特集 増やそう受け入れよう育てよう看護師

「看護師を増やし、受け入れ、育てたい」五月三〇~三一日、全日本民医連が行った拡大看護委員長会議は、全国各地でがんばる看護師の姿を浮き彫りにしま した。また、昨年夏から動きはじめた看護師増員の運動が、日本の医療を守る共通の課題として、共感を広げている報告が続きました。会議で出された経験をい くつか紹介します。また、「7:1看護」を届け出た青森・健生病院の看護師確保と育成のとりくみを取材しました。(木下直子記者)

「新卒離職ゼロ 退職率2.6%で7:1看護とる
青森・健生病院

 弘前市にある健生病院(二八二床・津軽保健生協)は四月、「7:1看護」を実施しました。マイナス改定の診療報 酬の中で、この看護基準が取れるかどうか、経営の明暗が分かれるところ。カギは看護師確保です。永井陽子総看護長は、「人材は宝です」と語ります。同院の 看護師退職率は二・六%、さらに〇四、〇五年と新卒看護師の離職を一人も出していません。

確保…看対専任看護長を配置

 「多忙極め退職増える 看護師不足が深刻化」、地元紙にこんな見出しが踊っていました。看護問題が取り上げられ たのはこれで数度目。青森に看護師が他県より多くいるわけではありません。弘前市内でも〇二年から二年間、看護学校や看護学科が相次いで閉鎖、地元の新卒 看護師がゼロという危機がありました。
 同法人の看護師確保の要は、看対専任の看護長です。新カリキュラムで教育されて来る新卒者への対応や、長期計画に見合った看護師確保のために九一年から 配置、コンスタントに一〇人前後を確保してきました。「当初はやむにやまれず配置したけれど、今はもう、看対専任者を置かないという発想が湧かないね」津 軽保健生協の事務局長・佐藤まささんと永井さんは顔を見合わせました。

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 学校まわりは法人をあげて行います。「全国レベルでみれば、待遇では勝てません。『こちらの強みはカネではない ぞ』と、チーム医療や在宅、研修、やりがいを訴えます」と、永井さん。一~五年目、中堅、管理者ごとに毎年研修計画を立て、継続教育をしていることも大き な魅力に。学校関係者が、注目する点です。
 看護体験や高校生一日体験のほか、最近は「来るもの拒まず」と、臨地実習(二校・計七〇人)も受けています。負担になる、とためらった現場も「学生に気 付かされることが多い」という感想に変わりました。学生を「手伝い」扱いせず、「教えながら学ぶ」という病院の姿勢に、「学生を送って安心」と学校から感 謝されます。実習を通じた入職者もさっそく生まれています。

新人を職場全体で見守る

 苦労して新人を受け入れても、離職率の全国平均は八・五%。多い時で一〇を超える学校―二年コースから四大まで、異なる教育を受けた新卒者が入る健生病院で、新卒の離職がゼロにできるのは? 「新人の困難な状況は、痛いほど分かるから、対応も細かく」と永井さん。
 まずメンタルヘルス対策。九州や大阪の経験を参考にしながら、「睡眠、食欲」など、新人をみるポイントもおさえました。時間をかけて手技を教え、夜勤に 入る「ひとりだち」時期も、個々の到達にあわせ、一律にはしません。
 看対専任の看護長は、ここでも大きな存在です。職場長に言えない悩みも、直接の上司でない専任者にはうちあけます。「辞めたくなった」というメールまで 届きます。学生時代からの関係を入職後も続け、「メル友」として悩みをキャッチ、職場と相談して救ったケースは何件も。
 エルダー制をとっていますが、担当者任せにはせず、職場全体で見守る雰囲気があります。医師や研修医も積極的に関わって、元気のない新人をささえたこともありました。
 昨年、初めて一年目の「世代会」も誕生。最初は、時間も保障し看対が世話をしましたが、最近は自立、自分たちで学習を始めています。

「よくやる」と思うほど教育を

 「よくやる、と自分たちでも思うほど教育を大切にしてきたのは確か」と永井さん。継続教育の実践で、新人も管理 職も年間計画を持ち、事例検討や研究発表をして、自分たちの仕事を振り返る機会があります。また「職場の目標とともに、職員一人ひとりが自分のキャリアを どうつくるか、プロセスも含めてはっきりさせることも、働きつづけるためには大切では?」と。認定看護師をめざす職員に、法人は資格取得の保障を整備しま した。
 「看護師確保の競争はこれまで以上に激しい。確保し、離職させないための努力は、もっと必要です」。


“とりくんだら元気でた”
分科会から…一〇分科会で交流しました。いくつかの報告を紹介します。

「ナース微笑み隊」奈良・吉田病院…看 護増員運動の立ちあがりは早くなかった。しかし、「情勢を知って運動を。まず学習しよう」と提起し、推進本部、確保委員会、管理部、労組と共同で学習会を 実施。ここに看護師五〇数人が参加。「看護師自らが声をあげなくては何も動かない!」と意思統一し、推進本部「ナース微笑み隊」を結成。
 まずは地域に署名行動へ。県の看護協会の会長が快く賛同、民間病院の総師長たちからの苦労話や、看護学校の苦労も聞けた。
 また、現状・情勢を「事例」から学ぼうという提起も。職場で昼休みを使い「ランチセミナー」という名の事例学習会を行い、他職種からも参加。これは四月 から始め、来年までスケジュールがびっしり埋まっている。とりくみを通してみんなが元気になっていると実感できている。(佐々木美恵子・看護部長)

「看護の充実検討会」群馬・前橋協立病院…昨 年一〇月からプロジェクト「看護の充実検討会」を理事会で立ち上げた。法人理事一人、病院事務長、各病棟から看護師一人ずつ、看護部長、副総師長で構成。 「やりたい看護は何か、それを阻むものは何か、どうすればやりたい看護ができるのか」というところから始めた。同じテーマで各職場で議論を行い、そこから 出た声がこの検討会へ集中。「今までこんな事を考える会議はなかった」という感想が多かった。
 この会議の中で、三年目看護師が、「『患者の立場の看護ができる』ときいて、がんばりたいと思っていた。でも現実は、ベッドをまわす事で精一杯。がっか りした。患者からのナースコールに応えられず、心が傷ついた」と発言。参加した理事はこんな現場の声をしっかり法人理事会で報告をしている。現場は励まさ れている。(渡辺幸子・看護部長)

毎日『看護部ニュース』発行大分・健生病院…一般病棟を10:1に、療養病棟を13:1へ転換。これに伴い多くの看護師が必要に。二月から一二人を受け入れた。
 情報を共有し、困難を切り抜けようと『看護部ニュース』を一月から毎日発行。各セクションに配って、朝、読みあげてもらっている。
 掲載しているのは、入院患者数、夜間帯の入院数、IVH・おむつ交換、食事介助などの患者情報から院内外の会議・行事、看護師の募集状況。また、行事に 出られなかった職員のために、事後報告も。最近は、患者さんの事例もとりあげている。職員も自分のがんばりが全体に共有されるので、意欲も出ている。
 看護問題を認識した他職種が看護師を紹介、確保につながる成果も。(上村友子・看護部長)

看護学校廃止で運動東京・立川相互病院…昨 年末、立川市の看護学校(一学年三〇人*三学年)の校長から学校廃止の相談があった。院内で「存続を求める会」を発足。この看護学校から毎年六、七人入職 しているので、同窓会を通じて請願運動をできないかと打診すると快諾。院内でも院長を通じ、市内の約一〇病院から署名を集めた。師長集団も圏域の師長会議 で訴え。非協力的だった師長も最近「ぜひ協力したい」と。7:1の影響ではないか。現在、署名が四〇〇〇筆を超えた。市議会が九月にあり、請願のやり方を 学んでいる。職員も「看護師確保大運動」の時期と重なり、看護学校廃止の影響の重大さを理解している。(櫛田葉子・看護部長)

六月五日、全日本民医連看護改善大運動推進本部は、次のようなアピールを発表しました。


 

おおいに学び、知恵と力をだしあい
看護師増員署名100万人筆の達成
看護師確保と養成の抜本的強化を!!

 5月30~31日開催された「全日本民医連拡大看護委員長会議」は、北海道から沖縄まで全県連から122名が参加、多くの運動の経験と“元気”があふれかえり、『たたかわないと私たちのめざす看護は守れないことを確信』する場となりました。
 『看護改善の運動は、患者を守る、地域を守ることを中心に据えることが重要』『自分たちの看護に、どう確信をもって語っていくかという問題だと思った。 参加されたみなさん、あったかくてシンのしっかりしている姿‥うれしかった』『運動のひろがりが、看護師の確保・育成につながるという構図が改めてはっき りしました』『署名目標や運動を“重たい”課題と受け止めるのではなく、楽しい取り組みにし、みんなが成長できる機会にしていきましょう。これをチャンス にして、学習し、語り、一人ひとりが成長できる取り組みにすることが大事と確認しました』等々の感想がだされました。
 いま、国会は医療制度改悪法案の強行採決めぐって、緊迫した情勢となっています。憲法25条に明記されている「国の医療や社会保障に対する責任」を放棄 し、患者・国民の負担のみ増やす悪法です。これは、患者・利用者のもっとも身近な存在であり、一人ひとりの願いにしっかり寄り添い、その方らしく生きてい き援助する看護そのものを否定する改悪です。また、療養病床の大幅削減は、「諸外国に比して病床数が多く看護職員配置が手薄」、「看護師増員ではなくベッ ド削減で看護師配置の適正化を図る」という国の基本施策を推進し、私たちの「看護師大幅増員」要求を否定する改悪です。
 「全日本民医連拡大看護委員長会議」は、昨年2月評議員会から今日までの看護改善大運動の到達をふまえ、以下の3点を確認しました。

(1)8月評議員会(20日)までに看護師増員署名100万筆を達成する
(2)06年に入職した900名の養成を成功させる
(3)07年新卒確保に向けた抜本的な対策を強める

 拡大看護委員長会議に参加されたみなさんの“あつい思い”を大切に、スピーディーに、事務局長講演や基調報告、指定報告、そして全体会や分散会での学び を、各県連・事業所で深め、ひろげ、「37期第1回評議員会までの看護改善大運動推進の重点課題」の具体化を図りましょう。
 とりわけ、緊迫した医療制度改悪法案の強行採決を許さない運動と連動させながら、すすめていきましょう。
 拡大看護委員長会議で学んだ「人材は宝」「“か・き・く・け・こ”職場づくり」「方針にうらうちされた強さを持つ、優しい看護師に」を胸に刻み、「患者 の立場にたち、患者の要求から出発し、患者とともにたたかう」民医連の看護理念を、いまこの運動のなかで高くかかげましょう。
~「たたかいのなかに、光りや笑顔がある!! アキラメナイゾ!」~

(民医連新聞 第1383号 2006年7月3日)

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