民医連新聞

2006年6月5日

学んでいのち守る力に 37回運動方針学習月間進行中

 四月から七月末まで、全日本民医連は三七期の運動方針を学ぶ「学習月間」を呼びかけています。方針は、世界や日本の情勢を深め、いのちの平等を実 現しようと奮闘する全国の仲間の豊かな経験が詰まっています。学習で「方針と職場で直面した事例とをみくらべ、自分たちには何ができるかを話しあった」と いう経験や、「来院できない患者さんの生活背景がたいへんなことがよくわかった」、「読んで終わるだけでなく、情勢や方針が自分の仕事とどうつながってい くか、考えることが大事だった」など、新鮮な感想が出ています。いま、月間折り返し点。各地のとりくみと、青年職員が無保険の患者さんを助け、学習の大切 さを実感した、という経験(滋賀)を紹介します。

集団で学ぶ工夫

 五回連続講座(長崎民医連)、一〇回の講師養成講座を実施(島根・出雲市民病院)など、県連や事業所単位で学習集会や養成講座が多く開かれています。
 また、職責者を先頭に、職場で方針を読み合わせ、読了をすすめる努力も。鹿児島・宮崎民医連では、主任以上の二九五人全員が読了しました。岡山民医連で は、職責者が方針の感想文を出すことにしています。四二の事業所中、五カ所で職員全員が読了しました。医療生協かながわでは、本部や職場に「読了シール」 を貼り、個々の到達がすぐ分かり、励ましあえるようにしています。
 兵庫民医連は職場での討議を呼びかける際、重点を二つあげています。(1)現在の情勢のもとで患者・利用者・住民、医療福祉労働に「何が起こっている か?」を話し合おう、(2)平和・人権・民主主義を守るために、各職場で「何ができるか」「何を取り組むか」、アクションプランをたてよう。

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 長野中央病院では、職場単位に朝や昼休みに読み合わせ、チューター方式で学習会をしています。ある職場では、毎 朝一〇分間の学習会を再開し、読了しました。そして、職責者の提案で、自分の仕事や日常と照らして総会方針から学んだことを全員がレポート。職場会議では 「自分たちに何ができるか」を話しあいました。共同組織の拡大や出資金増やしで目に見える成果が出ています。

事例とつなげ理解深める

 自分たちの身近にある患者・利用者さんの事例を確認しながら、運動方針の中身を深めようという工夫や努力もすすんでいます。
 福岡民医連は四月八日、新入職員・共同組織も参加して一二七人で「生存権を守る事例運動交流集会」を開きました。全日本民医連の「一職場一事例」運動の 提起を受けたものですが、学習月間のとりくみにも位置づけました。報告された事例は一二。「無保険で受診できず、手遅れになって自殺未遂」「生活保護の申 請を行政が受理せず、治療できなくなった患者さんがいた。粘り強く交渉し、生活保護に」など、困難を抱える患者さんの実態を共有する内容になりました。さ らに、法人単位(親仁会)でも一職場一事例の交流が計画されています。
 写真は京都民医連が、五月二五日に行った「人権のアンテナの感度を高め合う交流会」です。職員八〇人が参加しました。外来看護師、診療所事務長、ケアマ ネジャー、SWの四人が、それぞれの職場からの事例を報告しました。

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 福井では、光陽生協病院と周辺事業所が合同で行った方針学習会で、各事業所から事例を持ちより、話しあう内容を盛り込みました。事例を語ることで、医療・介護の改悪の中身の理解がすすみました。

〝保険証のないお母さんに思い切って声かけた〝
  ―滋賀・膳所診療所

 「学習の大切さを実感しています。人権のアンテナの感度を高めるには、事実を知るチャンスをつくること」。春に行われた全国の講師養成講座で、滋賀・膳 所診療所の田村誠事務長が発言しました。同診療所では、青年職員が気付いて、当座の生活にも困っていた母子を助ける、というできごとがあったのです。

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 高熱の子どもを連れ、保険証を持たずにやってきた若いお母さんに気付いたのは、中村尚子さん(25)、入職一年に満たない事務職員です。
 「保険証はありません」窓口の非常勤職員とのやりとりが、中村さんの耳に入りました。保険料が未払いで、とのこと。しかし一見、生活に困っているようで もなく、「自費で払いますから」と、言われました。それでも中村さんは気になりました。職場で学習したばかりだった「国保」の話を思い出したからです。国 保料が高く、払えない世帯が激増していること、滞納すると保険証がとりあげられ、受診もできない人が出ていること。
 子どもさんはインフルエンザでした。自費での治療費は高額になります。「ご事情がおありですか?」中村さんは思い切って話しかけました。返事は…「困っています」(!)
 夫が家出、子ども二人を抱えて低いパート収入を前借りしながら暮らしていたと分かりました。食べるのもやっとで、電気もガスも止められる寸前。お風呂も 妹さんが銭湯に連れて行ってくれて以来、三カ月入っていませんでした。どこに相談していいか分からなかった、と語りました。残金三万円、そんな中から自費 で医療費を出そうとしていたのです。
 診療所ですぐに生活保護が受けられるよう対応、一家は助かりました。
 「この事例で、診療所に来られへん、もっと困った人は他にもいる、と考えました」と、中村さん。

「人権のアンテナ」職場で感度高める

 膳所診療所のある滋賀民医連は、常勤職員一〇〇人、うち四〇%が二年未満という若い構成です。その分、制度教育などとあわせて、体験を通して事実を知る 機会を、と意識してきました。沖縄・辺野古連帯支援への参加は、七次までで一七人、NPT再検討会議へ代表派遣もしました。参加した青年職員たちの変化 に、「事実を知れば、若い職員も必ず変わる」と先輩職員も励まされているそうです。
 中村さんも入職後から、辺野古支援や全国ジャンボリーと、短い間にいろいろな場に参加してきた一人です。
 また、診療所の日常業務の中に、地域の様子や患者さんの暮らしがつかめる場面を意識してたくさんつくっていることも大きい。憲法九条、二五条にちなん で、毎月とりくんでいる行動があります。二五日は一度でも受診したことがある七〇歳以上の患者さんを訪問し、困り事や生活の状態を聞いています。
 気になる患者さん訪問は月に一度、カンファレンスも毎週行っています。これは全職場が参加、それぞれが受け持つ立場から、気になったケースをあげ、対応 を考えます。その場で担当する職員を決めてフォロー。SWがいないので、全職員が相談の担い手です。国保なら誰、生保は誰、相談を経験し、詳しくなった職 員に、聞きながらすすめます。インスリン治療中なのに短期証しかない若い労働者。野宿者を支援しているNPOからの診察依頼、など、さまざまな事例に関わ りました。
 「事実に触れる良い機会にもなります」と、田村事務長。「『診療所は社保、社保と言うが、その意味はこういうことやったんやな』と、分かってくれた ら…。一人ひとりの職員が抱いている思いを大事にするために、いつも心をうるおしておくには? と、考えます」。
 中村さんは、診療所での一年を、こう振り返ります。「いままで、私は生活に不安を持つ経験もなく、ぬくぬくしてきた、と思いました。生活が厳しい世帯 や、高齢者が多い、診療所周辺は、格差社会の縮図のよう。自分に何ができるか、分からへん所はあるけど、今は患者さんに愛着を感じてます。がんばりた い」。
(木下直子記者)

(民医連新聞 第1381号 2006年6月5日)

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