民医連新聞

2005年10月3日

医療倫理のはなし実践編 医療と介護の違いも討論「身体拘束・抑制ガイドライン」つくる

医療と介護の違いも討論
「身体拘束・抑制ガイドライン」つくる
東都保健医療福祉協議会

 東京の複数の医療機関と介護施設でつくる東都保健医療福祉協議会。そこに倫理委員会が発足して三年。この ほど「身体拘束・抑制のガイドライン」を作成しました。医療機関向けと介護施設向けにわかれていますが、双方の職員が意見をすり合わせ、共通の認識にまで 練り上げて作ったものです。作成の経過を倫理委員会事務局の森広也さんに聞きました。(編集部)

「身体拘束」は人権問題

 まず、「身体拘束」に対する介護施設と医療機関の考えに相違があることが分かりました。介護施設の委員は、拘束 をしないのは当然で、「拘束するのでは質の高いケアとは言えない」という考え方をもっていました。これに対して、医療機関の委員は「身体拘束はやむを得な い。どう説明と同意を求めるかが問題と考える傾向がありました。そこで、「ガイドライン」をつくることに。

 委員会では、「施設と療養病床と急性期病床は共通性もあるが、区別して考える必要があるのでは?」「本人に判断する力がある場合は事前の同意も可能だ が、判断能力がなく、家族に拒否されたとき、代案がなければどうするのか」などと意見がだされました。

 この議論を通じ、全委員が、あらためて「身体拘束」は人間の尊厳、人権に関わる問題と、とらえることができまし た。ガイドラインの基本的な考え方を、第一項に「身体拘束・抑制は人権侵害(憲法三四条)にあたる。従って原則廃止し、例外として最小限度に限る」と明記 しました。

 医療機関向けガイドラインには、身体拘束のマイナス面も書き、拘束廃止にむけて環境整備にとりくむことを明記しました。

患者・利用者・家族と考えられるように

 一番議論になったのは、「患者・利用者・家族への説明書および同意書」でした。

 委員からは、「高齢者がときに錯乱状態になる、という言い方はいかがか? 疾患との関係やなぜ起きるのか、どの くらい続くのかなど、経験的にわかっている範囲でも記載したほうが患者・家族は安心する」「拘束しないために家族の協力が必要と、書いてもいいのでは」 「問題行動がある、との表現は抽象的だ。誰にとって、何にとって、問題なのか」など、たくさん意見が出され、何回も討論しました。

 「説明書および同意書」には、まず身体拘束に対する私たちの基本的な考え方を説明し、これまでの経験から考えられた、拘束を必要とする場合や状態、身体拘束の方法、そのリスク面などを示しました。

 また、家族には身体拘束を予防するために、患者の話し相手になってほしい、と協力を呼びかけました。医師や看護・介護スタッフの説明に納得いかない場合、院内の苦情受付機関や、共同組織「患者の権利委員会」で検討するシステムになっています。

 これらを具体的に記すことで、患者・利用者・家族にも身体拘束についての考え方を理解してもらい、質問も出してもらえるように工夫しました。

 徹底的に意見交換したことで、お互いのさまざまな考え方や患者の権利についての考え方が委員の中で明確になり、説明書・同意書に反映されました。

 議論開始から半年、「医療機関向け」と「施設向け」の「身体拘束・抑制のガイドライン」と「患者・利用者・家族への説明書および同意書」、「身体拘束についての、私たちの考え方」の五つの文書が決定しました。その内容は医療機関も施設もほぼ同じ構成です。

委員会設置 2002年8月
委員構成 委員長(医科法人理事長)、副委員長2人(病院長・副院長)、委員(内部…医師5人、歯科医師1人、薬剤師2人、看護師9人、事務5人(含リスクマネジャー)、外部…弁護士1人、福祉施設長1人、共同組織3人)
検討事項 病院・診療所における患者への情報提供に関する基本方針、医薬品の治験と市販後調査要領など
開  催 年に9回くらい

(民医連新聞 第1365号 2005年10月3日)

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