民医連新聞

2005年9月19日

連載 安全・安心の医療をもとめて(41) 福岡・千鳥橋病院 ICUで導入したターゲットサーベイランス

 福岡・千鳥橋病院(三三六床)のICUは、院内全体で行う感染サーベイランスに加え、感染部位別のサーベイランス(以下、ターゲットサーベイラン ス)を昨年度、導入しました。スタッフの感染管理に対する意識を高め、感染率を下げることにつながります。ICUの小林慶子看護師の報告です。

 当院での感染サーベイランスは、全入院患者さんが対象で、院内で起きたすべての感染をカウントします。院内感染 サーベイランス調査票に、検出された菌名、検出部位、診断名、感染症か保菌者か、感染誘因となった基礎疾患、尿道カテーテルの挿入など処置の有無、検査値 を記入します。

 この方法は、感染の流行をとらえやすいのですが、労力や時間がかかるうえに、発生原因が病棟の感染対策が不十分であったためか、感染リスクの高い患者さんが多かったためかという点については判断できませんでした。

 そこで、感染リスクの高いICUで、ターゲットサーベイランスの導入を検討しました。この方法は感染部位をしぼって調査するため効率的で、評価しやすいものです。

2年の準備を経て
独自のワークシートも作成

 まず、二〇〇二年度は、ICU内での感染に対する環境調査をしました。ベッド周囲にMRSAが検出されたため、 ゴムシーツを廃止し、各ベッドにはディスポーザブルの手袋を置き、スリッパの履き替えをやめました。さらにCDC(米国疾患管理センター)が推奨する病院 感染対策の基本的な方法である標準予防策 ※ を徹底しました。

 〇三年度は、スタッフの感染予防に対する意識を一致させるためアンケートを実施し、学習会を定期的にひらきました。手洗い検証クリームを使った評価もしました。これにより、知識の向上ができました。

 感染管理の指標となる感染率を把握するには、個々の患者のリスクを考慮した情報が必要です。従来の記録方式はその点が不十分でした。そのため、まずはCDCガイドラインのワークシートを使って、ICUに入室中の患者さんの情報収集を試みました。

 一年間とりくんで、感染率は病院の規模や患者さんのリスクによって異なることが分かりました。より適確に対応す るために、スタッフの意見も取り入れてICU独自のワークシートを作り、〇四年度からターゲットサーベイランスを開始しました。その目的を「感染に対する スタッフの意識向上と標準予防策の徹底」と明確にしました。

 今年度、スタッフから集めたアンケートでは、ターゲットサーベイランスを継続する理解が得られ、他の病棟でも取り入れようとする動きもあります。

*   *

 今後は、ワークシートの改良、収集したデータの解析とフィードバック、一般病棟との連携など、感染対策の改善をさらにすすめていきたいと考えています。

※標準予防策…「患者の血液・体液および患者から分泌排泄されるすべての湿性物質(尿・痰・便・膿)は感染源とな るおそれがある」とみなして対応する。これらに触れた後は手洗いを励行し、あらかじめ触れるおそれのあるときは、手袋、エプロンなどを着用するというのが その基本。この予防策はすべての患者に適用される。


 

「千鳥橋病院ICUターゲットサーベイランス用紙」の記入方法

  • 全入室患者を対象に、日勤帯の受け持ち看護師が毎日記入
  • 人工呼吸器、中心血管カテーテル、尿道カテーテルに着目し、それらの挿入日、部位、場所、抜去日、感染兆候の有無を記入
  • 細菌培養検体提出日、その結果をチェックし、記入
  • ICU入室時や感染兆候出現時の培養検体提出を積極的に実施
  • 抗菌薬投与内容を記入
  • 患者退室時、ワークシートをファイリングし保管

(民医連新聞 第1364号 2005年9月19日)

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