(得)けんこう教室/外反母趾/正しい靴選びと足を鍛えることが大事
重盛 廉 福岡・大手町病院整形外科
外反母趾とは
外反母趾(がいはんぼし)とは、母趾(おやゆび)がその付け根で外側に曲がっている状態をいいます。母趾の骨と第1中足骨が「く」の字型になっていて、多くの場合、足の幅も中足部で大きく扇状に広がっています。
また、母趾の付け根の出っぱりが靴に当たるなどの刺激を受け、関節の周囲にある滑液包(かつえきほう)という部分に炎症を起こし、付け根が赤く腫れ、痛みます。足の裏にタコができ、これが痛むこともしばしばあります。
見た目で外反母趾と判断してもよいと思いますが、レントゲンでの骨軸の基準があります。母趾基節骨と第1中足骨が作る角度で示される外反母趾角(図1A)は、正常ではおよそ10度以下で、15度を超えると外反母趾とされます。
足ゆびの筋力低下も原因に
要因として大きなものに、靴などの生活様式があげられます。外反母趾は三〇代以降の女性に圧倒的に多く、ハイヒール・パンプスなどの靴が、外反母趾の発症と悪化に関係があるとよくいわれます。女性ホルモンとの関連を指摘する医師もいます。
しかし、外反母趾は子どもにも男性にも見られますし、靴を履く習慣のない民族にも見られますので、靴などの後天的要因だけが原因ではないでしょうし、女性だけの病気ともいえません。
最近では、足にある筋肉群が弱くなってきたり、靭帯(じんたい)がゆるくなっていることが、第一の要因と考えられています。現代型の生活をしていると、「足ゆびの運動」の機会が少なく、足ゆびの筋力が低下しているようです。
下駄や草履を履き、家では裸足で生活していたころの日本では、外反母趾はほとんどなかったようです。幼稚園・保育園などで「はだし保育」をしている施設もありますが、このような理由からのようです。
予防および悪化防止
外反母趾の予防としては、とくに靴による影響が大きいので、ハイヒールなどのかかとが高く 先の細い靴を長い時間履かないことが大切です。また、ふだん履く靴も縦横のサイズの合った正しい靴を選ぶことが大切です。購入時には、大きな靴屋さんで シューフィッター(足に合う靴を選ぶ専門家)に相談するのもいいでしょう。いい靴に出合えたら、次に買うときも同じ靴にするのも足へのやさしさかもしれま せん。
足を鍛えることも大事です。特殊な訓練は継続がむずかしいですから、裸足で歩くことや、よく足にフィットした靴でウオーキングなどの運動をすることが、最もシンプルでよい予防法といえます。
外反母趾を指摘された人は、さらに足の筋肉を鍛えるために、足ゆびを反らせる運動、足ゆびを屈伸してのタオル巻き上げ運動や足ゆびジャンケン運動(図2) も追加してやるのがよいでしょう。この運動は結構むずかしく、意外とうまくできません。変形がない方も試してみてはいかがでしょう。
矯正の主力は足底板
靴が当たって痛いということであれば、パッドを当てたり、痛い部分が当たらないように靴を調整したり、採型して足の形にあった靴を作ったりすることもあります。
矯正を目的とした治療としては、足底板(インソール)や装具があります。外反母趾では、多 かれ少なかれ足のアーチ(土踏まずの部分)が低下した扁平足になったり横幅が広くなったりしています。足底板は、靴の中に挿入して、アーチを持ち上げるこ とにより、足のそれぞれの変形をうまく矯正してあげるものです。これには一定の効果もみられ、病院ではよく処方されます。
そのほかに母趾を矯正するバンドやゆびの間にはさむ矯正装具などもあります。これらは夜だけ装着することが多いようですが、外反母趾を矯正するまでの効果は期待できず、補助的な治療具として考えた方がよいでしょう。
手術は最終の治療法
外反母趾には二〇〇を超える手術法があるともいわれます。裏を返せば、試行錯誤の連続で、これですべて解決という万能の手術法がなかったともいえます。骨切りを中心とした手術、腱切りや腱移行を中心とした手術、人工関節を使った手術など、とにかくいっぱいあります。
最近では、病態の理解も一歩すすみ、骨単独や筋腱のみの手術ではなく、それらを組み合わせた複合的手術も症例によってはおこなわれるようになりました。手術成績も格段に向上しているようです。
手術は、運動や矯正ではなかなか症状が改善しない場合の最終的な治療法です。その適応については整形外科、なかでも「足の専門医」とよくご相談ください。
イラスト・井上 ひいろ
いつでも元気2008年4月号