民医連新聞

2005年3月7日

就学前医療費無料化 アトピー児のお母さんの声実現

保険薬局と歯科診療所が自治体動かす 福井

 職員数一〇人のみどり薬局(福井市)と一〇人のたけふ生協歯科診療所(武生市)の運動がひろがり、自治体を動か しました。福井市同様「乳幼児の医療費無料化の就学前まで拡大を」と、武生、鯖江の二市に請願、うち鯖江市議会が全会一致で採択するという快挙です。はじ まりは、薬局窓口に立つ青年職員の気づきでした。(木下直子記者)

 「なにもかも初めてのことだったね」玉村亜沙美さん(27)と、薬剤師の大元真澄さん(30)は顔を見合わせました。二人はみどり薬局の社保委員です。

 昨年七月、薬局では就学前までの乳幼児医療費助成が福井市で実現したことを知らせるポスターを掲示しました。喜 びの声に混じって聞こえてきたのは「ウチの市にもこんな制度がほしい」というお母さんたちの声。薬局を利用する患者さんには、光陽生協病院のアトピー治療 を受けに、武生市や鯖江市など、近隣の自治体から来る人も多いのです。

 三歳以上の幼児が来れば、まず住所をみて、窓口負担の有無を確かめなければいけません。「福井市の人なら負担が ないのに」と思う毎日のモヤモヤ感を玉村さんは、同僚たちに話しました。これはさっそく社保委員会の議題になりました。アトピーの患者さんの窓口負担を調 べると、受診と薬代あわせて五歳児で月約一万五〇〇〇円、これに加え、高価な低アレルギー食品も必要です。

 「福井市と同じ制度を武生や鯖江にもつくりたい」と、社保委員会から職場にもちかけました。「自治体も財政がた いへんなのでは?」の疑問には、市議を呼んで学習会もしました。運動は一〇月半ばから始動、目標は新年度予算を討議する一二月議会です。「短期の勝負。薬 局だけではやりきれん」と、たけふ歯科に共同を申し入れ、さらに「歯科でも足りん」と、丹南社保協としてとりくむことになりました。

共感の輪ひろがる

 「各市で一五〇〇筆」と目標を話し合い、患者さんへ呼びかけ、保育園まわりも決行。ドキドキの訪問の結果は…武 生は一二園中九カ所、鯖江では一二園すべてが快諾。「ぜひすすめたい」「父母に配る」、「本当は私たちが始めないといけない運動、ありがとう」と感謝ま で。「私たちの願いは、たくさんの人たちの願い」と自信になりました。

 歯科の職員も励まされました。「福井市のみどり薬局が武生市の保育園をまわってくれたんだから」と、診療圏の区 長さんを訪問。「子どもたちのためなら」と、八自治会のうち、四自治会に署名の輪が広がりました。「武生の子どもたちの口腔衛生が、福井より悪いと感じて いた。これが実現すれば、変わるかもしれない」と、行動の中で歯科衛生士の辻昌子さんは語りました。

 「署名の紹介議員になってほしい、無理なら採択の時に賛成を」と全会派の議員に要請もしました。会えなかった議 員には電話で。大元さんは「医療費助成で浮いた金で、母親はパチンコに行くかもしれん」と暴言を吐いた議員に出くわしましたが、くじけませんでした。「業 務もあるし、育児もあって時間の確保がたいへんだった。でもこれは、二歳の娘を育てる私の願いでもあったし、誰かに頼まれたのではない、自分たちの運動だ から」。署名は目標を大きく超え、武生で四七六一筆、鯖江で二三二八筆、集まりました。

 玉村さんは言います。「薬局や歯科診療所の職員、社保協、署名に協力してくれた人たち全員の力」。でも、なんといっても薬局が喜びに沸いたのは、保育園から送られてきた最初の署名でした。彼女はニュースにこう書きました。

 「一一月一二日、いつものように仕事をしていると、郵便が届きました。その中には、な、な、なんと、訪問した保育園から署名が届いていたのです! 全部で一七六もの署名でした。感動………………です」。

 「署名を集計していたら、区長印を押して回覧して集めた地区もあった、すごいことになった、おもしろいなーと思 うたよ」と、医療生協理事で社保協代表委員もつとめる末永覚平さん、大ベテランの顔も輝きます。請願は、鯖江市議会が全会一致で採択。武生市では採択され ず継続審議になりましたが、なんと市町村合併にともない行われる市長選の候補者が、二人とも公約に「就学前医療費無料化」をかかげました。また、同市の福 祉保険課が低所得者とアトピーなどの慢性疾患児への就学前無料化を検討する、という動きも。

「自分のこと」としてつかめれば

 「結果もうれしい、でもこんなとりくみができたこと自体がうれしくて。中心になった人、薬局に残ってささえた人、みんなの成果」と、法人代表取締役の青山睦美さん、専務の松原信也さんは、目を細めます。

 二人は困ったときのアドバイスや行動への同行など、ていねいに青年職員を見守ってきました。「病院や診療所など と比べ、患者さんの生活が見えにくい保険薬局が、どうしたら『患者さんの受療権を守ろう』と動ける職場になれるのか…難しさを感じつつ、機会を探していま した。社会の問題を自分のこととしてつかめれば、力が出るんですね」。

 先日、県連の運動交流集会でこのとりくみを発表した玉村さんは最後こう結びました「県内すべてで、この制度の実現をめざしたいです」。

* *

 「一方で、三月議会で予算に入るかどうか見守る必要もある」と松原さん。「鯖江市が三歳未満の医療費窓口無料化 を補助金で行った時、国はペナルティーとして八〇〇万円の補助金をカット。今回、就学前までにひろげると、さらに補助金カットがあるのでは? と市も苦 悩」。「国はなんで?」と言う大元さんに「小泉さんが何を考えてるか、話し合おうな」と松原さんは応えていました。

(民医連新聞 第1351号 2005年3月7日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ