全日本民医連 歯科部
 

「平成18年度診療報酬改定に関するパブリック・コメント」

2006年1月26日
全日本民主医療機関連合会
歯科部 部長 南條芳久

 「パブリック・コメント」を求めることは、行政と国民との間に一つのパイプをつくることになります。今回の診療報酬改定が国民と歯科医療担当者の声を反映した改定となることを期待し、意見、要望を述べさせて頂きます。


1.歯科診療報酬に係る意見・要望について

  1.  歯科保険医療機関は長期にわたる収入減のもとで、職員や材料費の削減を強いられています。そうした中で今回の歯科診療報酬1.5%の引き下げという改定は、歯科医療機関とって「安全・安心・信頼の歯科医療」の提供を果たす上で大変な困難を抱えることになります。国民に「安全・安心・信頼の歯科医療」を提供する上でも、あらためて歯科診療報酬の引き上げを求めます。

  2.  一方、家計調査でも明らかなように、患者の医療費窓口負担の増大は歯科治療を享受する格差を生む原因となっています。日本国憲法25条の精神にもとづいても、患者の窓口負担の引き下げは緊急な課題です。

  3.  平成11年福祉動向調査の「歯科医療への要望」では「保険の範囲をひろげてほしい」が35.8%で高位にあります。今回の診療報酬の改定にあたっては、エビデンスもあり歴史的にも評価が安定している金属床義歯やインプラントなどの治療技術を保険に導入することを求めます。

  4.  「特別な関係」にある「保険医療機関等」との連携した歯科診療に関する診療報酬算定規制の撤廃を強く求めます。
     高齢者が増える中で医科、福祉などの施設と歯科医療機関の連携が大変重要となっています。例えば、内科的な病気として糖尿病等の合併症をもっている患者、要介護状態にある患者や利用者に対し、積極的な歯科治療や口腔ケアなどの口腔内の健康を守る取り組みは、健康増進の点からも積極的な意味を持ちます。現在、同一法人である医療機関の病院等の入院患者を、歯科保険医療機関が歯科訪問診療を行った場合は、訪問歯科診療料やそれに関わる加算などが算定できないことになっており、同一法人内での歯科訪問診療を積極的に取り組まない歯科保険医療機関が増加し、これらの医療機関にかかる患者には深刻な影響を与えます。


Ⅱ.「平成18年度診療報酬改定に係る検討状況について(現時点の骨子)」についての意見・要望について

  1.  かかりつけ歯科初診料・再診料の廃止において、歯科初診料・再診料と医科初診料・再診料の格差をなくすことを求めます。
     また、今回のかかりつけ歯科初診料廃止によって、かかりつけ歯科初診料の算定要件としてこの中に包括されていた診断用模型や口腔内写真などが独自算定できるよう改善をお願いします。

  2.  「病院歯科初・再診料」と、「地域歯科診療支援病院歯科初・再診料」を歯科診療所の初・再診料と区別することは反対です。すべての初・再診料は同じとし、病院歯科や地域歯科診療支援病院歯科での診療行為の特殊性や、他の医療機関との違いを明確にして歯科診療報酬項目の新設や加算で対応すべきです。

  3.  歯科臨床研修制度の開始に伴う加算については、本来、患者負担を伴う診療報酬財源ではなく、一般財源でおこなわれるものと思いますが、診療報酬での補助をおこなう場合でも、外来での研修が中心となる歯科臨床研修の特徴をふまえ、提案のような入院歯科診療への加算ではなく、外来部分への加算となるようにされたい。

  4.  小児歯科診療における救急医療への評価は当然です。小児歯科診療を充実させる上では乳幼児加算そのものの大幅な引き上げをお願いします。

  5.   治療計画や指導管理の内容を患者に文書で配布することは積極性を持っています。
     なによりも患者と歯科担当者の信頼をつくる上で、基礎となる診療報酬上の位置づけや仕組みを重視すべきです。
     歯科医師が患者へ治療計画を示して同意をえることは当然ですが、基本は患者の積極的な医療参加を保障する内容とすべきです。実際に治療経過の中で治療計画の修正を必要するケースも多数あります(例えば、生活歯で保存の予定が抜随となるなど)。
     また、指導の内容も文書だけで患者の行動変容がおこるわけではなく、受診した患者の状況をふまえ機会ある毎に何度も様々な角度から指導する必要があり、毎回の文書の発行は不必要な負担を患者や医療担当者にかすことになります。今回の提案されている画一的に文書による患者への情報提供を「指導管理料等の算定要件」にするのは反対です。指導効果を上げるためには、十分に一人の患者と意思疎通のはかれる診療時間を診療報酬として保障することが大切です。
     現在の歯科診療報酬では患者の生活背景まで問診を十分に行うことすら困難であり、是非、患者の医療参加を保障できるような歯科診療報酬制度に改善をしてください。

  6.  「総合的な歯科治療計画」や「継続的な指導管理」の包括化した診療報酬には反対です。
     「総合的な歯科治療計画」の内容が不明ですが、通常、咀嚼機能の改善や保全を目的に、むし歯や歯周病、あるいは欠損状態、生活背景、予後の見通しなども含めて一口腔単位で治療計画を立案することを「総合的な治療計画」と定義することが診療上必要なことです。
     しかし、「総合的な歯科治療計画」にもとづく診療や「継続的な指導管理」は実際の臨床現場では多くのケースで画一的にはすすません。特に、現在の「か初診」算定の要件のように、初診日と次回診療の間という短時間に治療計画を立案し提供することは、十分な口腔内の診査や情報収集、患者の生活背景の把握などが必要であり、現実的には困難です。
     また、これは初期の診療開始時点のものであり、その後の歯周病などの治癒や歯内療法の予後によって、治療計画の修正がうまれることは一般臨床では多々あります。したがって、現行の歯周病においては検査等の診療報酬だけではなく、同時、その時点の診断や治療計画の修正について診療報酬をつけるべきであり、必要となった時点で診療報酬上に算定できる仕組みが妥当と考えます。
     「継続した指導管理」についても、現在はほとんどの指導料が月一回に算定が制限されていますが、実際は、患者一人ひとりごとに指導内容だけではなく、指導頻度もことなり回数の包括化には反対です。
     「治療計画」および「継続した指導管理」それぞれにおいても、包括化は診療実態を反映しません。さらに、「治療計画」と「継続した指導管理」が包括されると、ますます診療実態とかけ離れることは必須です。特に、患者の仕事や生活上の都合でたびたび治療が中断となるケースなどでは、包括化することで保険診療の組み立てが複雑となり、患者と歯科医療機関の間でトラブルが多発する可能性が高くなります。
     患者にとっても歯科医療機関にとっても「包括化」は適切な歯科診療を行う上で障害となる可能性が高いと考えます。

  7.  「補綴時診断料の算定単位を変更」の具体的な内容が不明のままではコメントをしにくいのですが、基本的には補綴時診断料は現行を基本とすべきです。
     また、「補綴物維持管理料」は成功報酬の仕組みになっており、この仕組みでは歯を保存するという動機付けよりも、2年間のやり直しを少なくするために抜歯等を誘発している可能もあります。このように、現行の「補綴物維持管理料」には成功報酬という医療とは相容れない重大な問題があると考えます。しかし、「歯の保存や補綴物の維持」は歯科においては重要な行為です。したがって、「評価を引き下げる」のでなく「補綴物維持管理料」は廃止して「歯の保存」の重要なポイントである「補綴時診断料」や「補綴物維持」のための「メンテナンス料」に振り向けるべきです。

  8.  機械的歯面清掃の保険導入には賛成ですが、十分な手間をかけることのできる診療報酬での評価を求めます。また、歯科医師または歯科衛生士が行える処置とすることを求めます。

  9.  「旧来型技術等」の内容が不明ですが、より安全や治療予後へのエビデンスのある代替えの技術が保険診療に導入されるのであれば賛成です。

 


  

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