副作用モニター情報〈461〉 糖尿病薬DPP4阻害薬によるRS3PE症候群
2015年6月、糖尿病薬DPP4阻害薬のシタグリプチン(製品名:ジャヌビア、グラクティブ)の副作用「RS3PE症候群」が添付文書に追記されました。RS3PE症候群とは、「比較的急性に発症する圧痕浮腫を伴うリウマトイド因子陰性の対称性滑膜炎」のことで、60歳以上の高齢者に多発します。消化器系、前立腺などの固形がんや悪性リンパ腫の合併が多いとされています。
アメリカでも同年8月に、食品医薬局からこれらのDPP4阻害薬と重篤な関節痛に関する安全性情報が出されました。後日、その他のDPP4阻害薬でも同様の副作用が報告されたため、全てのDPP4阻害薬の添付文書に「関節痛のリスク」が追記されています。
当モニターにもジャヌビアの投与でRS3PE症候群が疑われる症例が1件報告されました。
症例)80代女性。血糖コントロール不良のためジャヌビア50mg開始。2年8カ月後、右肩の痛み、両手指の関節痛・腫脹が発現。ANA、ANCA、抗CCP抗体、リウマチ因子陰性。その後、足の浮腫、握るのが困難なほどの手のしびれも発現。RS3PE症候群を疑いプレドニゾロンを開始し、ジャヌビアをトラゼンタに変更。プレドニゾロン服用後10日目で関節痛・腫脹が解消、肩拳上良好と劇的に改善。その後トラゼンタ継続にて関節痛はないもののMMP-3著明増加、CRP上昇あり。
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シタグリプチンでRS3PE症候群が発現するしくみは、(1)CD26が阻害され繊維芽細胞活性タンパクが増加し、繊維芽細胞が増殖する、(2)インクレチン濃度上昇により血管の形成を促す糖タンパク質が分泌されて滑膜細胞が増殖し、タンパク質分解酵素が過剰に産出され、炎症を起こす、という2つのしくみが考えられています。
当モニターでは、過去5年間に同剤でのRS3PE症候群の報告はありませんが、トラゼンタで肩の痛みが、またジャヌビアで関節痛が報告されています。国内ではシタグリプチン以外の添付文書は改訂されていませんが、今回の症例等から、他のDPP4阻害薬でも注意が必要と考えられます。症状が発現した場合にはDPP4阻害薬以外に変更すべきです。
また、同じ糖尿病薬のGLP1作動薬では、当モニターにはRS3PE症候群とみられる症例の報告は過去5年、ありません。しかし、インクレチン濃度上昇も原因のひとつだとすると、副作用発現の可能性が考えられます。
DPP4阻害薬やGLP1作動薬を使用中の患者には、RS3PE症候群や関節痛の発症可能性がある事を念頭に、薬を渡す際に患者への聞き取りが重要です。悪性腫瘍が否定される場合は薬剤性も検討すべきです。
(民医連新聞 第1623号 2016年7月4日)
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