第41期第3回評議員会方針(案)
2015年7月18日 第41期第18回全日本民医連理事会
(1)激突の時代、総力挙げて、平和と憲法を守り抜こう (2)半年間のとりくみの特徴と課題 (3)42回総会へ向けての重点 評議員会特別決議(案) |
はじめに
第三回評議員会は、日本の国の在り方をめぐる歴史的岐路の中で迎えます。
民医連綱領は「日本国憲法は、国民主権と平和的生存権を謳い、基本的人権を人類の多年にわたる自由獲得の成果であり永久に侵すことのできない普遍的権利 と定めています。私たちは、この憲法の理念を高く掲げ、これまでの歩みをさらに発展させ、すべての人が等しく尊重される社会をめざします」と明記し、憲法 にねざし、平和と人権を守り抜くことを私たちの使命としています。
憲法九条を壊す安倍政権の戦争法案を廃案にすることは、民医連にとってもっとも重要な課題です。三六〇万共同組織とともに戦争する国づくりをストップさせるため総力を上げましょう。
わたしたちは、この半年間、四一回総会の三つのスローガン、方針を実践し、平和、憲法、社会保障をめぐり、国民的な共同を強めてきました。
戦後七〇年、被爆七〇年、平和と人権を掲げ、地域からさらなる国民的共同の年に、と呼びかけた第二回評議員会から半年、平和と憲法守れの声は大きな共同の行動となって安倍政権を追い詰めています。
評議員会では、戦後七〇年にあたって特別決議を発表します。大いに活用しましょう。第三回評議員会の目的は、(1)第二回評議員会からの半年間を振り返 り、情勢認識を一致させ、第四二回定期総会まで半年間の方針を確認する、(2)第四二期役員選考の基準を確認する、ことです。
(1)激突の時代、総力挙げて、平和と憲法を守り抜こう
1.戦争法案の廃案に全力を
(1)違憲立法を許さず、参議院での廃案を
安保法制案は、アメリカの戦争に自衛隊が参戦し、支援することを可能にするまさに戦争法案であり、憲法九条を破壊する違憲立法であることが誰の目にも明らかになりました。
憲法学者の九割以上、また内閣法制局長官経験者らが相次いで「安保法制は憲法違反」と表明し、安倍政権が立憲主義(国民の権利や自由を守るため憲法が国 家権力の横暴を縛るという民主的な憲法を持つ国々では共通の立場)を踏みにじり、立法により事実上の改憲を行おうとしている暴挙に対し、多くの批判と民主 主義を守れの声が挙がっています。日本弁護士連合会、一万人を超える学者、大学生、高校生など若者、女性、戦争体験者、年配の方々、各層の国民が全国で批 判の声を挙げています。法案撤回、慎重審議をもとめる自治体意見書も、四三六議会を超え増え続けています。
世論調査では国民の六割が憲法違反と回答し、八割が政府の説明に納得せず、第二次安倍政権発足後、はじめて不支持と支持が逆転する状況です。追い込まれ た安倍政権は民意を無視し、衆議院で与党だけで法案採決を強行する暴挙に出ましたが、何万という国民が国会を包囲し抗議の運動はさらに広がっています。全 国津々浦々、国会でさらに運動を強め、安倍政権を包囲し参議院で戦争法案を必ず廃案に追い込みましょう。
(2)憲法の平和主義を守り抜こう
憲法前文は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全 土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを 宣言し、この憲法を確定する」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公 正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐ る国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを 確認する」
「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」と述べています。
憲法九条は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する 手段としては、永久にこれを放棄する。2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と述べて います。戦争法案によって集団的自衛権を行使する余地は憲法にはありません。
(3)進行する改憲勢力の民主主義破壊
政権党である自民党の国会議員が、言論統制と言える暴言を吐きました。「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなることが一番」「沖縄のゆがんだ 世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか」などと発言、それに答え、講演者(美しい日本の憲法をつくる国民会議発起人)は、 「沖縄の二つの新聞社はつぶさなあかん」などと述べました。これらの発言は偶然でなく安倍政権の「異なる意見には耳を貸さない」姿勢と根は同じであり、改 憲運動の中心にいる勢力による民主主義の破壊です。
(4)高まる医療の戦争動員の可能性
医療においては、すでに二〇〇三年の武力攻撃事態対処法において、有事の際、国が地方自治体や「指定公共機関」(民間)と協力し、必要な措置を実施する 責務を有する、とされています。指定公共機関とは国立病院機構、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益事 業を含む法人で、政令で定めるとしており、政府が公益的と認定すればすべて含まれます。今回の戦争法案で戦争に動員される可能性は格段に高まります。
戦前、公然と戦争に反対することで、政府から弾圧された時代がありました。その時代に平和と人権を掲げた私たちにつながる無産者診療所の運動がありまし た。また、多くの国民が平和を願い、痛切な反省の中で現在の憲法を作り、国民主権、平和的生存権、基本的人権を普遍的権利として確立し、七〇年間にわたっ て「戦争しない国」として、今の日本を作りあげてきました。いのちを守る私たちは、いのちを最も粗末にし、最大の人権侵害である戦争につながるすべての行 為に反対します。
2.社会保障の解体を許さない運動を
(1)医療、介護の崩壊を招く安倍政権の社会保障解体路線
安倍政権は、戦争する国づくりと一体に社会保障費削減を強力にすすめています。
二〇一二年八月に成立した社会保障制度改革推進法にもとづき、医療・介護総合確保法、生活保護法改悪、プログラム法、介護保険法改悪、大幅な介護報酬マ イナス改定、年金引き下げ、医療保険制度改革法と社会保障の抑制政策が従来に増し、急速に推進されてきました。
今年度の社会保障削減が三九〇〇億円にのぼることが小池晃議員の国会質問で明らかとなりました(表)。小泉政権時の社会保障予算の「自然増二二〇〇億円 削減」を大きく上回る削減額です。また、今後七五歳以上の後期高齢者医療は、加入者一六〇〇万人のうち八六五万人が受けている保険料の「特例軽減」を二〇 一七年度から廃止し、二~一〇倍もの負担増の押し付け(図)などでさらに深刻な事態が広がります。
さらに、六月三〇日に「経済財政運営の基本方針二〇一五(骨太の方針二〇一五)」が閣議決定され「社会保障は、歳出改革の最重点分野」とし二〇一六年から 五年間にわたり社会保障費の自然増八〇〇〇億円から一兆円を五〇〇〇億円以下に抑制すると計画しました。内閣主導で社会保障の「改革集中期間(二〇一六 年~二〇一八年)」を設定し、この三年間で社会保障の伸びを一・五兆円以下にしていく路線が鮮明にされています。
その主要な改革は、二〇二五年医療・介護提供体制の改革を軸に、「都道府県毎に医療費の水準や医療の提供に関する目標を設定し、都道府県別一人当たり医 療費差の半減をめざす」、「地域医療構想との整合性の確保や地域間偏在等の是正を踏まえ医師・看護職員等の需給の検討」、「看護を含む医療関係者職種の質 評価・質向上や役割分担の見直しの検討」、「都道府県への診療報酬特例」、「かかりつけ医普及に伴う診療報酬対応や外来時の定額負担」、「高額療養費制度 や後期高齢者の窓口負担」、「公的サービス(社会保障)の産業化」「公的保険給付の範囲や内容の検討」、「市販類似薬のさらなる保険外し」、「患者負担額 の上限引き上げ」、「要介護二以下三九一万人の保険外し」、「年金支給年齢の引き上げ」、「生活保護の医療扶助費への自己負担導入」など従来にない踏み込 んだ削減・抑制改革です。
これは、小泉内閣時代にすすめられていた医療構造改革をさらに加速するもので、これまで以上の医療、介護の崩壊を招くものです。
厚生労働大臣の私的懇談会「保健医療二〇三五策定懇談会」の提言書は、容認できるものではありません。保健医療制度の根底の価値規範、原理、思想を転換 した「社会システム」をつくると表明し、現物給付の原則の否定、フリーアクセスと「自由開業医制」を否定し、全国統一給付保障の否定を内容としており、わ が国の国民皆保険制度を根底から覆し、アベノミクスによる医療の国際展開路線に屈したものと言わざるを得ません。保健医療を社会保障から経済成長の手段へ 転換する内容であり、厚生労働省の本務である「国民生活の保障及び向上」という役割を放棄するものです。医薬品、医療機器の企業と専門医、行政の癒着が相 次いで報道され、利益相反、薬害被害の教訓も生かされていない構造が取りあげられています。
(2)社会保障の充実に使われていない消費税引き上げ
社会保障の充実のために全額を使うとし、消費税の引き上げを強行しましたが、一五年度予算では、増税した八兆二〇〇〇億円のうち一六%、一兆三五〇〇億 円しか社会保障費は増額されていません。二〇一七年四月に実施するとしている消費税一〇%の撤回を求め運動を強めます。戦争する国、企業が一番働きやすい 国づくりのため、国民のいのちを軽んじる国づくりを許してはなりません。
(3)医療費抑制を強力にすすめる医療提供体制の縮小
医療保険制度改革、国民健康保険の都道府県単位化は、医療・介護総合確保法と合わせて「国民皆保険制度」の解体をめざしています。医療費削減の中心であ る医療提供体制の改革は、急性期病床の削減、慢性期、回復期病床、在宅へ早期に患者を移していく方針です。「医療・介護総合確保法」により、病床機能報告 制度、都道府県による「地域医療構想」策定、その実現のために都道府県知事に強い権限をもたらしました。内閣官房の「医療・介護情報の活用による改革の推 進に関する有識者会議」は六月一五日に、二〇二五年までに病床一割以上削減、在宅患者三〇万人増の推計を発表し、鹿児島の三五%削減をはじめ東京、大阪、 千葉、埼玉、神奈川以外の四一道府県で削減見込みとしました。今後都道府県が「地域医療構想」として二〇一六年秋までに計画を策定する予定です。
医療提供体制のあり方は、住民のいのちに直結する問題です。また安倍政権は、医療費抑制にとどまらず、医療の市場化、本格的な産業化を目指しており、国 民皆保険制度を解体することを意図しすすめています。こうした流れは、住民の医療要求や国民皆保険制度を基本とした施策からかけ離れ、安心して暮らしたい と願う国民との矛盾はより大きくなっていきます。「誰もが安心してかかれる医療提供体制を」、「誰もが払える保険料を」など、いのちの平等の実現をめざす 運動は、市町村、都道府県、地域を単位としてますます熾烈になります。各県連が都道府県、自治体の課題を社保協などと共同して分析し、たたかいの方針を明 確にして運動をすすめることが必要です。
(4)介護保険制度改悪と介護報酬マイナス改定の深刻な影響
今年四月から「改正」介護保険法が施行され、総合事業の実施や補足給付(低所得者を対象と した居住費・食事の負担軽減制度)の見直しなどの制度変更に伴い、利用者・家族に新たな混乱、困難が生じています。地域では介護報酬の改悪で小規模事業所 の廃業が相次ぎ、介護サービスの基盤が壊れてきています。八月から特養多床室で基本サービス費の再引き下げに伴う室料徴収、年収二八〇万円以上の利用者の 二割負担が始まろうとしています。
補足給付の見直しにより、預貯金調査など人権侵害ともいえる手続きを強いられる中で申請を取りやめる利用者や、補足給付の対象から外れることで退所を余 儀なくされる利用者も出ています。現場、地域の実態をつかみ、国に対して介護保険制度の改善、介護報酬の再改定を求める介護ウエーブを大きく広げます。 様々な困難を抱えている利用者一人一人にしっかり寄り添い、これまでの生活を継続できるようあらゆる手立てを尽くしましょう。
四月から引き上げられた介護保険料は全国平均で月額五〇〇〇円を超えました。保険料の引き上げとサービスからの追い出し、保険あって介護なしの事態が作 り出されています。また、厚生労働省の調査で介護保険料滞納によるペナルティにより介護サービス利用時の自己負担が三倍になる高齢者が全国で一万人を超え ることが判明しました。滞納者はいずれも年間八〇万円以下の年金のため年金天引きの対象とならない低所得の高齢者です。経済的に困窮し保険料を滞納せざる 得なかった高齢者や家族にとってサービス差し止めに等しい制裁が広がっています。
厚生労働省が六月二四日に発表した推計では二〇二五年度には三八万人の介護職員が不足します。充足する見込みの都道府県はひとつもありません。しかもこ の不足数は現状の介護職員が充足していることを前提として推計されているにすぎません。
(5)生活保護改悪をめぐって
改悪された生活保護法により、二〇一三年から三段階で実施された生活扶助基準の引き下げに加え七月から住宅扶助基準引き下げ、一一月(一部地域一〇月) から冬季加算が削減されます。四四万世帯が受給している住宅扶助基準の引き下げは、生活基盤を脅かし、冬季加算の引き下げは、寒冷地に住む高齢者や障がい や病気のある受給者への健康に甚大な影響を与えるものです。
五月、神奈川・川崎市の簡易宿泊所の火災で一〇人の高齢者が命を落としました。千葉・銚子市では県営住宅に住んでいた母子家庭の親子が、「家を失ったら 生きていけない」と家賃滞納で立ち退きを迫られた期日に心中をはかり、娘さんが亡くなりました。
これらの背景には高齢者や母子家庭、社会的な弱者に対する日本の住宅政策の貧困があります。住まいは人権です。生活の基盤を奪う事はあってはなりませ ん。実施に移される住宅扶助・冬季加算削減は例外措置を認められています。十分に活用し、いのちと人権を守っていきましょう。
3.原発事故被害、再稼働を巡って
福井地方裁判所で関西電力大飯原発判決に続き、高浜原発三.四号機でも、運転差し止めを命じる仮処分が決定されました。焦点となったのは原子力規制委員会 の新基準の評価です。福井地裁は「緩やかすぎて安全性が確保されない」と新基準そのものを否定しました。一方で九州電力川内原発一・二号機では、仮処分を 認めず申請を却下しました。政府は、新基準に適合した原発から順次再稼働するとし、川内原発、伊方原発などで再稼働の準備をすすめています。国民の七割以 上が原発の再稼働に反対し、原発ゼロが多数の意思であることに変わりはありません。
六月一二日改定された政府の「福島復興指針」は、二〇一七年三月までに居住制限区域の解除、一年後に精神的損害賠償月額一〇万円を打ち切るなど、収束し ていない原発事故を隠し、原発事故の被害者を切り捨てようとするものです。五年が過ぎたから区切りをつけるということは、いまだ一二万人が避難し、暮らし の目途がない中で到底許されるものではありません。もとの暮らしに戻ったのか、もとの福島に戻ったのかが判断の基準です。
福島県はこれに合わせ自主避難者に無償提供されている応急仮設住宅、みなし仮設からの追い出し(推定九〇〇〇世帯、二万五〇〇〇人)を計画しています。 東電は自主避難を理由に家賃負担を一円も行っていません。国と東電の原発事故と損害賠償の責任を求めて運動を強めていきます。
4.辺野古新基地建設反対を日本中の運動に
安倍政権は、沖縄と日本の民意に背き、辺野古新基地建設へ向けた海底ボーリング調査を強行、継続しています。県内の世論は八〇%、国内全体で七〇%の国 民が「移設反対」もしくは「見直すべき」と答えています。安倍首相などは翁長雄志沖縄県知事との話し合いにおいて「辺野古新基地建設が世界一危険な普天間 基地の危険性除去の唯一の選択肢」と繰り返していますが、県民、国民からの理解は全く得られていません。逆に調査に反対する県民の声と運動に押され、着工 は大きく遅れています。
五月一七日に、辺野古新基地建設に反対する県民大会が行われ三万五〇〇〇人以上が参加、沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議が沖縄県内各自治 体に広がっています。新基地建設を認めない民意は揺らぐことはありません。
四月六日に映画監督の宮崎駿氏ら八人が共同代表となり呼びかけた辺野古新基地建設反対活動を支援する「辺野古基金」への寄付金は当初の年間目標三億五〇 〇〇万円を超え、その七割は本土から寄せられています。オール沖縄のたたかいからオールジャパン、世界的な運動に広がっています。沖縄県議会は、特定外来 生物が土砂に紛れて侵入するのを防ぎ、沖縄の自然環境を保護し生物多様性を維持することを目的に県外からの土砂搬入を制限する条例を可決しました。搬出予 定の県でも連帯した行動が始まっています。
有識者による第三者委員会の検証を受け、八月に翁長知事が前知事の行った辺野古湾岸の埋め立て承認に瑕疵があったとし承認の取り消し、または撤回を決断 する見込みです。沖縄民医連と連帯し、民意をさらに集め、辺野古新基地建設反対のたたかいを粘り強くすすめていきます。
5.いのちを売り物にするTPPへの反対を強めよう
六月二三日、アメリカ上院議会でTPP交渉合意に必要なTPA法案の審議が打ち切られ、法案採決の動議が可決、TPP妥結の可能性が生まれてきました。 公約を破って交渉参加に踏み切った安倍内閣が、「国会決議」を無視して合意に突きすすもうとしています。国会決議と国民との公約より日米合意を先行させ、 TPP交渉の大筋合意に主導的役割を果たすなど言語道断です。
交渉参加国のなかでも公共事業や政府調達、ISD条項、新薬の保護期間延長などをめぐって根強い抵抗があり、日本国内でも多くの自治体がTPP交渉に反 対や懸念を表明、国連の専門家からも「医療保障・食品安全性・労働基準などの人権のしきい値が低下するといったマイナス影響が予想される」と懸念の声明が 出されています。TPP締結を巡る状況は単純ではありません。
韓国でMERSが拡大しています。背景には、利益優先で公立病院を減らし民営化をすすめた新自由主義的医療改革があります。採算性の悪い感染隔離病室や 病棟のある公立病院は全病院数の約六%、病床数一〇%に過ぎません。九五%を占める民間病院には感染隔離施設はなく、多くの患者が二次感染の震源地と言わ れているサムスンソウル病院など民間病院で院内感染を起こしました。いのちより儲け、こうした流れの中で国民の命は守れません。多国籍企業の利益のため に、地球規模で人々のいのちと暮らし、人権や主権を脅かし、地域をこわすTPPの本質への認識を広め、反対の運動を大きくしていきましょう。
6.国民生活の悪化格差と貧困の広がり
物価上昇、消費税の引き上げ、医療費負担増、年金引下げなど安倍政権のもとで国民生活は悪化の一途です。
五月の実質賃金は物価上昇に追いつかず、二五カ月連続マイナスとなりました。
二〇一四年の国民生活基礎調査が発表され、生活が「大変苦しい」と回答した世帯が二九・七%、「やや苦しい」が三二・七%、「苦しい」と回答した世帯を 合わせると六二・四%となり、一九八六年の調査開始以来最も高くなりました。特に一八歳未満の子どもがいる世帯では六七・四%が「苦しい」と回答し、全世 帯の平均を上回っています(図)。
警察庁の統計では就活自殺は、二〇〇七年から昨年までで三〇二人になり、二〇一三年の大学生の就活自殺率は人口全体の自殺率の五・八倍となっています。
また二〇一三年、一人暮らしの高齢者のうち半数近くが年収一五〇万未満、高齢者夫婦のみの世帯でも七世帯に一世帯の割合で年収が二〇〇万円以下となっていると報道されています。
孤立死をする高齢者も後を絶ちません。国民の中に広がる格差と貧困は、健康を直撃しています。二〇一四年経済的事由による手遅れ死亡事例調査でも国民健 康保険料(税)の未納、窓口負担ができない、失業などで保険証がないなどを理由に医療にかかることができず亡くなられたケースが五四例寄せられました。
7.広がる国民的共同と「架け橋」としての民医連の役割発揮を
安倍政権のすすめる諸施策は、戦後七〇年、憲法を土台に平和、人権を基本として歩んできたこの国の在り方を根本から変えようとするものです。今、多くの 国民が、危機感をつのらせ、声をあげています。戦争法案反対、九条守れ、民主主義を守れ、この声は日々大きく広がり、国民の共同が大きく前進しています。
四月の統一地方選挙で平和と憲法を守る政治勢力の大きな前進、五月の大阪都構想住民投票での大阪市をなくすな、地方自治を守れの一点で保守、革新の枠を 超えた共同が広がり勝利しました。全日本民医連は、第四〇回総会で、平和と人権、国民生活に関わる重要な課題を一致できる要求で共同をすすめる「架け橋」 となろうと提起し、この三年間、全国各地で奮闘してきました。今、こうした共同の力が、政治を変える力としても発展しています。
戦争法案の参議院でのたたかい、八月には安倍首相の戦後七〇年の「談話」、原発再稼働、辺野古湾の埋め立て申請の承認取り消し・撤回など安倍政権と民意 の矛盾はますます広がります。あらためて架け橋として三六〇万共同組織と民医連の出番を確認し、確信を持って平和と人権が輝く日本をめざして奮闘しましょ う。
(2)半年間のとりくみの特徴と課題
1.貧困と格差に立ち向かう民医連の医療・介護の活動
(1)今年四月より各自治体で第六期介護保険事業計画(地域包括ケア計画)がスタートしています。施設や地域密着型サービスなど自治体の計画によっては今 後の法人の事業展開が大きく左右される場合があります。自治体の計画をよく分析するとともに、法人の事業内容や地域包括ケアの方針などを伝え、具体的な提 案を行うことが必要です。
今後、在宅医療・介護連携推進事業、認知症施策、生活支援(協議体の設置、生活支援コーディネーターの配置)などの地域包括ケアの具体的なとりくみが各 市町村で本格化していきます。民医連の事業所や共同組織の関わりや参画が大きな課題となります。地域ケア会議も全市町村で開催されていきます。給付削減の 手段ではなく、困難ケースへの対応、地域の課題を明らかにするなど本来の役割を果たすよう自治体に働きかけ無差別・平等の地域包括ケアを作り上げる運動を 起こしていきましょう。
また、新規加算の算定をはじめとする改定介護報酬への対応、利用者の拡大を引き続き追求します。今改定は「二〇二五年に向けた機能への配分」と位置づけ られています。各サービス事業の特徴、地域で求められている役割を明確にし、機能強化や質の向上をはかる視点でとりくみます。地域の要求・期待にいっそう 応え、地域に選ばれる事業所をめざします。対応の点では、法人内の事業の再編や職員配置の大幅な見直しを要する場合もあり、法人全体の事業計画にも関連づ けながら検討・具体化することが重要です。報酬改定に対応した法的整備、職員の確保・養成、「介護の安全性」のとりくみを強めます。
(2)地域包括ケア時代を反映し、医療安全とともに介護安全の確保や介護現場の倫理的問題の 解決等が、医療安全交流集会や医療介護倫理交流集会、チーム医療研修・交流集会でも重要なテーマになりました。各事業所では、多くの医療・介護で働く職種 が連携・協働して高齢者の人権を守る視点からとりくむことがますます重要になっています。
八月に開催する「地域包括ケア学習・討論集会」では、政府・厚労省の自己責任を土台にした「植木鉢モデル」ではなく、人権(生存権・健康権)を土台にし た地域包括ケアに転換していくことや、地域連携・協同や住民組織を中心に置く地域包括ケアの構築とその争点、貧困と格差に立ち向かう無差別平等の地域包括 ケアの探求と実践について問題提起しています。各事業所で議論と実践をすすめていきましょう。
(3)第二回HPHセミナーは、幅広い病院団体や学会の賛同を得てHPHの発信や協同の広が りを作り出しました。民医連外での加盟の動きが出ていますが、民医連内での施設加盟(二八施設)をさらに広げましょう。また、病院団体や学会の代表者、研 究者が発起人となりJapan HPHネットワークが設立されようとしています。第二三回HPH国際カンファレンス(オスロ)には、一一事業所二四人が参 加し二〇演題を発表する等住民主体のヘルスプロモーションを世界に発信してきました。
全日本民医連QI推進公開事業は、測定五年目を迎え貴重なデータや成果が蓄積されています。今年度の厚労省「医療の質の評価・公表等推進事業」では、そ のとりくみが評価され、全日本民医連が採択されました。次のステップアップをめざし、その中心課題である「二〇一六年QI指標バージョン三(案)」に対し て積極的に意見を結集しましょう。
(4)「SDHの視点、ヘルスプロモーション活動への参加などを通じた総合性を身につける医 師養成」、「民医連らしい医療活動をつくり、そのプロセスに医師養成の課題を巻き込めているか」など各県連や法人・事業所では、医療活動と医師養成の一体 化の議論や実践が始まっています。貧困と健康格差に立ち向かう無差別平等の地域包括ケアの構築が今後の民医連の医療・介護活動の重要なテーマです。その活 動の展開とそれを担う医師養成が求められています。一一月に第四回医療活動と医師養成方針検討会議を開催し、地域包括ケア時代における医療活動と医師養 成、そして医学対と深く結びつけた問題提起や議論を行い、来期の運動方針へ反映させていきます。
(5)熊本、東京、大阪を会場に検診を行い、受診者の九割超に水俣病の症状が確認されまし た。九月にも熊本で実施予定です。水俣病の認定申請者は熊本・鹿児島両県で一九二一四人(今年三月末)に対し、認定患者は二二二七人です。被害の賠償を求 める訴訟の原告は一〇〇〇人を超えています。一九六五年五月新潟県北部の阿賀野川流域で発生した新潟水俣病は公式確認され今年で五〇年です。四月末現在で 二五一八人が認定申請していますが、認定患者は七〇二人にとどまっています。認定をめぐり約九〇人が争っています。国に対し、線引きを止め早期に最後の一 人まで救済するよう求めていきます。
昨年一一月に実施した路上生活者精神保健調査の結果がまとまりました。一一四人の調査を行い、三四%に知的障害、四二%に統合失調症やアルコール依存症 などの精神疾患を抱えていました。また何らかの障害を抱える当事者は六二%に上りました。こうした結果を受け、実行委員会では障害に合わせた支援方法を実 施するよう国と自治体に求めていく方針です。
二〇〇五年六月二九日の「クボタショック」から一〇年が過ぎました。アスベスト疾患は労災認定も含めると二万人を超える被害者を生みだし、中皮腫だけで も年間一〇〇〇人が死亡しています。二〇三〇年にはアスベストを含む建物解体はピークを迎えます。引き続き被害者救済のとりくみを強めていきます。
2.憲法を守る大学習運動
「憲法を守る大学習運動」は全県連で旺盛にとりくまれ、学習会は一七五一回、のべ参加者二万一三二人になり、総会方針の学習運動に迫っています(六月 末)。五月一二日には全国的な交流集会を開催し、とりくみを強化してきました。各地では、全日本民医連のDVDを活用した学習を軸に、とりくみがすすめら れ、戦争法案阻止のたたかいの大きな力になっています。共同組織の方々も交え戦争体験を聞き「記憶する」とりくみ、看護奨学生と職員が共に基地のフィール ドワークと憲法を学習するなど多彩にとりくまれています。憲法についてどう考えるかといった職員アンケートも各地で行われています。「後になって知らな かったでは済まされない」「憲法は難しいものと思い込んでいたが、基本的人権を不断の努力で守るためには難しいなどとは言っていられないと思った」など学 びを通じてたたかいの決意が多数寄せられています。
一方、「中国、北朝鮮が攻めてきたらどうするのか」など率直な疑問も出されています。一つ一つの疑問についてていねいに話し合い、互いに学びを深めてい きましょう。総会までに全ての職員、全ての職場、共同組織の班会で学習を行いましょう。
3.平和と人権、いのちの平等、受療権を守る運動
二〇〇五年からとりくみ始めた「国保死亡事例調査」は、二〇一四年度の「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」で一〇年目となりました。この一〇年で救 えたはずの無念の死は報告されているだけで四四六事例です。国は社会保障解体をすすめ、大幅な負担増を強いる医療、介護制度の改悪をすすめています。東京 の相互歯科では、難病を抱え在宅で療養を続ける患児家族の声から、暮らしている自治体が違うだけで、吸入器や介護ベッド購入の助成を受けられないことを問 題として取り上げ、議会に働きかけ、ケース毎に必要性を検討し運用するよう変えさせました。「制度を変えさせなければ、平等な医療福祉は実現しない」と確 信が広がっています。制度改悪がすすむ中、人権のアンテナを働かせ、患者・利用者に寄り添う中で、多くの運動の課題が見えてきます。運動を起こし受療権を 守り抜くときです。
無料低額診療事業の実施事業所は、総会時点の三四〇事業所から三六六事業所となりました。奈良では県連として委員会を設置、県に対し申請制の制度である ことを確認、患者の生活保護比率が一・三%の診療所であっても受理され、事業を開始しました。
国保法四四条、生活保護など権利としての社会保障を前進させるたたかいをすすめるとともに、総会までにすべての事業所で申請に挑戦しましょう。
保険薬局で発生する無低利用者の窓口負担金に自治体助成を求める運動も広がっています。那覇市議会では保険薬局の負担金助成を全会一致で決議する成果も 生まれました。保険薬局の負担金助成を秋の議会に向けて一斉に働きかけましょう。
第三四次辺野古・高江支援・連帯行動、事務幹部学校フォローアップ研修など、辺野古新基地建設反対行動への支援・連帯を強めてきました。沖縄民医連から 呼びかけられた「沖縄民医連二〇一五 平和を守るたたかい」では六月末現在、沖縄民医連六〇〇人、県外から一三県連、二地協、一六八人が参加しています。
被爆七〇年の節目で行われた二〇一五年NPT再検討会議に向け、署名七一万筆、ニューヨーク行動に二三六人の民医連関係者が参加し奮闘しました。
二〇一五年NPT再検討会議は、アメリカ、イギリスなど核保有国の反対で最終文書は採択に至らなかったことから、一部マスコミで「決裂」と否定的に報道 されました。しかし、今回は、前回よりも核兵器禁止条約が必要だとする主張が広がり、草案の段階で核兵器禁止条約が明記され、最終文書草案では「核兵器の ない世界」の実現に「必要な法的規定を含む」「効果的な措置を特定し、策定する」とまで提案されました。これは、前回のNPT再検討会議以降、核兵器の非 人道性に着目した運動の広がりや核兵器禁止条約への賛同の広がりなど、核兵器廃絶に向けた世界の運動が多数を占め前進してきたからです。
長崎民医連がとりくんだ被爆地域拡大の調査活動は大きな反響を生んでいます。広島の「黒い雨」被爆地域拡大を求める訴訟も始まります。被爆者に寄り添う活動を強めていきましょう。
この間、三万人が参加した五・三憲法集会をはじめ、「憲法守れ」「戦争法案反対」「STOP安倍政権」などを掲げた各地の集会など、これまでの一点共闘 の枠を超えた運動が広がっています。その中で、民医連は引き続き「架け橋」の役割を果たして、いずれも大きく成功させてきました。
特定行為に係る看護師の研修制度の開始へ向け、省令案に対するパブコメを発表し、理事会で「医療のあり方を大きく変える『特定行為に係る看護師の研修制 度』について民医連の考え方と留意点」を決定しました。患者の人権を守り適切な医療を提供する立場で、「考え方と留意点」にそって制度の理解と法人・事業 所での検討をすすめていきます。
4.原発事故に立ち向かう民医連の活動
全日本民医連としての福島連帯支援活動を開始し二回で四〇人が参加しました。仮設住宅を訪問し、被災者と懇談した青年職員は、「原発被害が生活も思い出 も奪い、何ら責任を取らない東電、国に対し怒りがこみ上げる」「盆明けに避難解除がされるが人が住める環境でなく、住み慣れた地域に帰ることができない。 国と東電は多くの方々の人生を変えたという認識があるのか」とあらためて原発被害の実態に怒りを覚え、「見て感じるという視察の力は大きい、辺野古のよう に長期にわたり継続し、多くの職員が感じる機会を作ってほしい、事業所に『感じた』職員を増やし、運動を作っていきたい」と語っています。
各地に避難している原発事故被害者の相談活動を全国ですすめられるようセミナーを準備、全日本民医連の原発問題学習パンフレット《新版》を発行します。
5.経営活動の到達
二〇一四年度の経営は速報値の段階で三割にあたる四三法人が赤字で、このうち二三法人は、二年連続の赤字となっています。
医科法人の経常利益率は〇・八%と最も厳しかった二〇一三年度より〇・一ポイント悪化しています。収益は前年比一〇一・六%と若干増加しましたが、費用 の増加分を賄えていません。二〇一四年度の短期指標該当は一四法人、中期指標該当は四九法人となっています。財務基盤の弱い法人や、金融機関への借入金返 済負担が大きな法人では、利益の確保ができず資金困難に直面するおそれがあります。民医連経営の状況は厳しい局面であり、改善がはかれないまま来年度診療 報酬マイナス改定が強いられれば、深刻な事態に陥りかねません。二〇一四年度経営実態調査、モニター法人の第一四半期概況について評議員会に報告します。
理事長・院長セミナー、病院委員会の交流集会、診療報酬改定交流集会などを通じ、医師や看護師など幹部による経営状況の認識が高まっています。経営管理 やマネジメントについても様々な機会を利用して、独自に学習し実践に活かすとりくみが始まっています。全職員あげて経営の質の向上に結び付けて経営問題の 打開に挑戦しましょう。
診療報酬は、二〇〇〇年度から一四年間で実質八・六七%のマイナス改定となっています。こうした状況の中で、医療機関の経営は急激に悪化し、国民が求め る医療の安全、医療の質の向上が担保できなくなった地域も出現しています。全日本民医連は、二〇一六年度の診療報酬改定にあたり、「憲法二五条にもとづ き、人権としての社会保障の実現を求めること」、「医療経営を成り立たせ、人材育成と確保ができる診療報酬に引き上げること」、「医療の質を担保するに足 る診療報酬の適正な評価をおこなうこと」、「診療報酬を医療改革の手段として使わないこと」などを基本要求に底上げを求め、改定すべき個別要求をまとめ七 月に厚生労働大臣に提出し交渉を行いました。
徳島健康生協からの要請を受け、全日本民医連理事会では、「経営困難組織支援規定」の人材派遣基準に基づき、当面三カ月間専務補佐と事務局次長一人を現地に派遣し対策本部のもと指導と援助を行っています。
民医連の統一会計基準推進士は、第八期の養成講座までで、九四四人が推進士の認定を受け、事務職員の一一%に達しました。第九期民医連統一会計推進士養 成講座を現在二八六人が受講しています。「全職員参加の経営」という民医連経営の強みにつないでいきましょう。
6.医師養成の到達と課題
(1)民医連の常勤医師実態調査(二〇一四年一一月時点)
集約が終了しました。現在まとめ作業をすすめており、評議員会で報告します。
(2)新専門医制度設立への対応と制度改善へのとりくみ
二〇一七年から後期研修は新専門医制度としてスタートします。
本年一月に発表した「新専門医制度に対する全日本民医連の見解」(以下「見解」)は、新制度設立について全国の医療界の議論に一石を投じました(注)。
各県連から全国の病院に送られた「見解」に対して、地域医療への影響を危惧し、「見解」に示した民医連の要望に賛同する声が多数寄せられています。全日 本民医連は、この「見解」を携え、日本医師会、全日本病院協会、日本プライマリ・ケア連合学会の役員との懇談を行い、ともに力を合せて、より良い専門医制 度確立に向けてとりくむことを確認しました。今後も他の医療団体との懇談をすすめる方針です。
(注)機構に役員を出している四病院団体協議会からは「一.研修施設群については地域の実情を把握した上で多様な施設を認めること(中略)基幹施設の多 くが大学となる場合においても以前の医局制度に戻すのではなく、医師の偏在が解消されるような制度設計とすること、二.情報の開示と透明性の確保、三.機 構の収支予算の明確化を図ること」との意見書が日本専門医機構に提出され、全国の関係者を励ましました。
第二回評議員会では、新専門医制度の問題点を明らかにし、改善のために全国の医療関係者と手を携えてとりくんでいくことを確認するとともに、民医連とし ての対応方針も示しました。無差別・平等の地域包括ケアを本格的に推進するために、総合診療専門医と総合内科専門医(新・内科専門医)を育成する後期研修 を基軸にすえつつ、民医連らしい領域別専門医の育成を地域分析、ポジショニングをもとに民医連内外の連携も含めてオール民医連ですすめることを提起しまし た。より質の高い後期研修(専攻医教育)に挑戦するとともに、新制度の施行により形骸化する恐れがある初期研修の意義と役割を改めて認識し、民医連での初 期・後期研修の更なる発展を目指す方針を確認しました。
また、新専門医制度施行により質・量ともに変貌することが予想される研修関連実務やそれに対応する体制作りについて、事務担当者と幹部を対象にした「新 専門医制度に対する事務幹部・研修事務担当者会議」を開催し、新制度に対する民医連としての具体的対応を開始しました。研修担当者間や各領域別の医師の メーリングリストを作成し、「新専門医」プロジェクトや各地協での情報をリアルタイムで全国に発信し、活用しています。
(3)医学生対策の到達と課題
二〇一五年卒は一四一人の初期研修医を迎える事ができました。一六卒年は、現段階では昨年と同様の到達となっています。地方大学を中心に新専門医制度導 入の動きから「将来、専門医になるためには初期研修より大学入局を」と迫る動きが出ています。マッチング登録の締切へ向け、最後まで各学生の悩みや思いに 寄り添い、病院実習・見学、研修相談など民医連の研修の魅力を伝えるためのあらゆる手立てを打ちましょう。高校生、低学年からのとりくみの強化で五〇〇人 の民医連奨学生集団をつくりあげましょう。
社会保障改悪や戦争法制定の策動は、現代の青年・医学生にとって重大事です。こうした事態を医学生と共有し、ともに学びたたかっていく姿勢で医学対をす すめることが必要な情勢です。そういう点でも医学生のつどいの発展は重視すべき課題です。医学生のつどいは、学生の多様な学ぶ要求に応え三カ月ごとの開催 とし、全体を結集するつどいをこれまでの八月開催から翌年三月に変更しました。六月は「戦後七〇年を考える」、一〇月は「医療格差」をテーマに設定し学習 と討論を積み重ね、参加学生の広がりを生み出しています。
7.民医連運動を担う職員の養成
全日本民医連教育活動指針(二〇一二年版)にもとづき、職場教育の実践を中心にしたとりくみがすすんでいます。その中で、職員育成は日々の民医連の医 療・介護の実践と運動の中から、民医連綱領に確信を持つ中で前進すること、「人間的発達ができる」職場づくりと一体にすすめられています。
憲法学習は旺盛にとりくまれていますが綱領、民医連の活動を結びつけてとらえることが重要です。民医連を学び体感する媒体として「民医連新聞」、『いつでも元気』の活用、および購読をすすめましょう。
青年職員の育成、事務職員育成、教育委員会の機能強化、急性期医療の現場など多忙な職場、介護職での育成や職場づくりの困難さなどが課題として浮かび上 がっています。一二月に職場づくり交流集会(仮称)、一一月に事務委員長会議(仮称)を開催し全国的な討議をすすめます。
事務幹部学校卒業生を対象に、フォローアップ研修会を実施しました。激変の情勢を体感するために沖縄開催とし、高江・辺野古のフィールドワークや幹部と しての生き方・姿勢に迫る講演を主な内容としました。「事務幹部の役割をあらためて自分自身に深く問い直すことができた。いのちと平和を守る課題を、たく さんある課題の一つにしていないか」などの感想が寄せられています。県連単位や地協単位での開催も始まっています。全国のとりくみとの関係を整理し、総会 方針に反映させていきます。
看護管理者講座は、フィールドワークなどを通じて情勢を学び時代認識を深め、民医連医療の歴史と発展を学び看護幹部集団としての構えをつくることを目的 としています。前期講座は六月に沖縄で開催し、五六人の参加で沖縄のたたかいの歴史と現実を学びました。後期講座は一一月に福島で行います。
8.歯科分野のとりくみ
二〇一四年度決算状況は、調査提出七八事業所中(提出率‥六七・八%・六月一〇日時点)の黒字事業は五六事業所(七一・八%)となり、経常利益は二・三%となっています。
二〇一五年の地域包括ケアを見据えた中長期計画マニュアルの作成と民医連らしい歯科医療チェックリストの活用をすすめていきましょう。
鳥取県議会は六月二六日、「保険でよい歯科医療の実現を求める意見書」を全会一致で可決しました。これで県下の全自治体で採択されたことになり、全国で は大分県に続き二番目になります。全国で現在三四・三%の自治体で行われた意見書採択を当面過半数めざし、とりくみをすすめましょう。
「歯と口の健康週間」スタートの六月四日に四二八人の参加で「歯は命六・四国会内集会」を成功させ、国会議員要請行動や省庁交渉を実施しました。格差と 貧困の広がりのなか、口腔崩壊からの健康悪化が深刻な事態として広がっています。また、医療の市場化、国民皆保険制度を壊そうとする政策のもと、「保険で 良い歯科医療を」の署名を、民医連目標の二〇万筆を上回るようとりくみましょう。
9.共同組織の到達
共同組織は、五月末現在、三五九万(人・世帯)、『いつでも元気』購読数は五万五七五一部です。四一回総会は、地域から共同を広げ、安心して住み続けら れるまちづくりをすすめるためには、共同組織活動の量、質ともの発展が不可欠とし、今日的な発展方向を探求し、新しい担い手づくりや職員の積極的な活動参 加ができる画期を作ろうと呼びかけました。
今日、いのちにまで自己責任を迫る安倍内閣のもと、共同組織の果たす役割はますます大きくなり、総会方針の提起の重要性が増しています。全国各地では、 健康づくり、居場所づくり、見守り、助け合いなどを通じた「安心して住み続けられるまちづくり」のとりくみが大きく広がっています。
民医連がめざす無差別・平等の地域包括ケアにつながるとりくみとして、「総合事業」開始の中で自治体や地域包括支援センターと懇談、自治体としての事業 や見守り活動への参加、行政区単位、中学校区単位での共同組織づくりを検討している共同組織も生まれています。若い世代や子どもを対象とした親子向けサロ ンや「ママカフェ」は、安心して子育てできる地域づくり、「ひとりぼっちのママをつくらない」とりくみとして注目されています。格差と貧困が広がる中、子 どもの貧困に対して無料塾にとりくむ共同組織も増えています。こうした様々な活動を通じて、共同組織の担い手も増えています。自らの要求実現と支えあい活 動を通じて、共同組織の活動に確信が生まれています。
こうした前進とともに、さらに飛躍していく上で、若い世代の活動家づくり、担当者の位置づけや力量を役割にふさわしくどう引き上げていくか、共同組織の 前進へ向けた県連的な計画を確立し推進する事などが課題です。全職員を対象にした共同組織について学ぶテキスト『共同組織とともに』(仮称)を発行しま す。
10.全国的な課題
二〇一四年八月に発生した広島市の土砂災害に対して全国支援を行いました。義捐金を送りるとともに、三六県連、のべ一六三二人が支援を行いました。鹿児島県口永良部島の火山噴火に対して義捐金を送りました。
自然災害時に孤立する地域は、全国で約一万九〇〇〇あり、把握されているだけで約一四〇万人が暮らしていると言われています。また、活動期に入った火山 の噴火、巨大地震はいつ発生しても不思議ではありません。MMATの活動計画を理事会で確認しました。今期中に第一回の研修にとりくみます。
第二回評議員会で確認した共同購入連絡会の強化へ向け、運営委員と懇談を行ってきました。徳島対策委員会では医薬品、消耗品等の対策を共同してすすめています。全日本民医連から役員が入りました。
非営利・協同総合研究所いのちとくらしが創設され一三年が経過しました。医療・福祉の領域で非営利・協同事業の研究がますます必要とされる情勢となって います。長期ビジョンの案が提示され、四役との懇談をすすめ、共同組織の研究、医療福祉情報共同センター(仮称)の確立を共同の事業として確認してきまし た。
民医連退職者慰労会連絡協議会は、六五歳まで働き続ける時代を迎え新たな慰労金制度の改定案を提起しています。全国的討議を共同してすすめます。
東日本大震災のため、延期されていた青年劇場の「青ひげ」は、福島公演で終了し職員、共同組織を中心に一万人を超える方々が観賞し、感動を広げました。
愛知・南医療生協と東海北陸地協、全日本民医連で懇談を実施しました。結果を受けて愛知民医連四役と協議を行っています。
(3)42回総会へ向けての重点
1.戦争法案廃案 憲法を守りいかす大運動を
憲法改悪をすすめる安倍政権とのたたかいは、正念場を迎えます。戦争法案を廃案にすれば、異常な政権に計り知れない打撃を与えることができます。
情勢を「いのち」、「憲法」、「綱領」の三つの物差しでとらえ、平和と人権を守る社会をめざして変革していく立場で臨みましょう。
若い職員への学習援助と主体的な運動への参加をすすめることが特に大切です。憲法学習、沖縄支援、平和学校などフィールドと結びていねいにすすめること で、職員の行動参加も広がっています。運動の前進と職員の育成は一体です。上滑りでなく、時間も費用もかけ、学習と運動を強めていきましょう。
次期総会から、来年夏の参議院選挙へ向け、憲法を守りいかす旺盛な運動にとりくみます。「一職員一“わたしと憲法”」の手記づくり、「加害の歴史を学 ぶ」など職員、共同組織が参加する運動と一体に戦争法案を必ず廃案に追い込んでいきましょう。
NPT再検討会議の成果を踏まえ、被爆七〇年の広島、長崎の原水禁世界大会成功へ向け奮闘しましょう。被爆体験の継承、被ばく者への支援とあわせてすすめていきます。
圧倒的に広がる辺野古新基地建設に反対の民意の中、基地は決して作ることができない状況に追い込んでいます。翁長県知事を支え、建白書実現へ向け決して 「アキラメナイ」、「屈しない」沖縄のたたかいを全国の大運動にし、日米両政府が断念するまで粘りづよくすすめましょう。辺野古支援連帯行動への全国から の参加、全日本民医連第三五、三六次辺野古・高江支援連帯行動、たたかいを支える財政活動に全国でとりくみます。全日本民医連が作成した辺野古・高江を知 らせる写真パネルをすべての事業所で活用しましょう。
日米合意に基づき、日本全土で欠陥機オスプレイの配備、訓練が始まりました。東京、佐賀をはじめとして各地での運動を強めていきます。
2.医療、介護を守る共同の運動 共同組織月間の成功を
医療保険制度改革関連法が強行され、一六年から入院給食代の引き上げ、紹介状なしの大病院受診時の定額負担、患者申し出療養、一七年後期高齢者医療制度 の保険料軽減特例の原則廃止、一八年から国保運営の都道府県への移管、入院時食事代の再引き上げなどの具体化が、これから審議会や国会、都道府県、市町村 で検討されます。来春の通常国会では、骨太方針二〇一五で示された、さらなる医療・介護一体となった改悪が出されようとしています。たたかいの方針は社保 委員長会議で提起しますが、社会保障解体か、権利としての社会保障を取り戻すのか、重要な時期です。二〇一七年の消費税引き上げの中止とあわせ、来年の診 療報酬の底上げを求める運動を強めましょう。
国民皆保険制度を守る、地域医療を守る、これは日本医師会をはじめとした医療界の一致点です。社会保障解体をストップさせる共同を広げるため全力をあげ ましょう。共同を広げる中で「人権としての医療・介護保障をめざす民医連の提言」を広げていきましょう。自治体でのたたかいが重要な時です。一致する要求 で地方議員との共同を重視してすすめましょう。
「保健医療二〇三五」について、省内に実行推進本部をつくる方針が表明されていますが、国民の意見、医療界など関係者の議論をおこなうことなく工程表を作るなど許されるものではありません。
介護保険制度改悪と介護報酬の大幅なマイナス改定の深刻な影響について調査、告発を行い、介護ウエーブをすすめていきましょう。障害者総合支援法の二〇 一六年四月見直しへ向けた案が年内にも提案されます。障害者の権利を守る運動を障害者団体とすすめていきます。
「憲法いかし、いのちまもる一〇・二二国民集会」をたたかいの結節点として成功させましょう。
今年の共同組織月間は、戦争法案廃案、憲法を守る大運動中でとりくまれます。また、画期を作ろうと呼びかけた「担当者の養成」、「新たな担い手づく り」、共同組織の中長期計画など総合的に共同組織の強化にとりくみ、経験を総会へ持ち寄りましょう。一一月末までに三六五万構成員、『いつでも元気』五万 八〇〇〇部をめざしてとりくみます。
販売所活動全国交流会を行います。二〇一六年九月の第一三回共同組織活動交流集会in東海北陸(石川)へ向け、全県連から共同組織連絡会委員を選出し、成功させましょう。
3.原発ゼロ、福島支援の活動を強めよう
福島支援、原発ゼロの日本をめざして全国でねばり強くたたかいを広げます。川内原発、伊方原発など再稼働は言語道断です。九月に行われるNO NUKES WEEKのとりくみなど原発ノー、再稼働ノーの共同を前進させましょう。再生可能エネルギーの事業所への導入を積極的にすすめましょう。一〇 月までのわたり病院への医師支援を全国の力でやりぬきましょう。各地の避難者に寄り添い、支援活動を強め、切り捨てを許さない運動をすすめましょう。一一 月に第三回福島支援連帯行動にとりくみます。
4.民医連綱領と憲法の実現へ向け政治を変えるとりくみを
沖縄県知事選、統一地方選など民医連としてのとりくみを旺盛にすすめてきました。医療や福祉、介護、平和や暮らしと政治の在り方は切り離すことは出来ま せん。私たちのいのちを守る願いと逆行し、いのちを奪う戦争を選択しようとしている今の政治の姿に痛切に感じられるのではないでしょうか。
私たちは、民医連綱領と憲法の実現をめざす重要な一環として選挙を位置づけてきました。個々の職員の思想信条の自由を大前提に、徹底して政治を学び、議 論することが何より大切です。一八歳選挙権が実現し来年の参議院選挙から実施されます。若者の政治参加の機会がより広がります。
すべての幹部が、職員に、共同組織に大いに民医連運動と政治を語り、民医連綱領と憲法の実現をめざす先頭に立つことを呼びかけます。
被災三県の福島、宮城、岩手で行われる統一地方選挙、地方自治を守る知事と市長を選ぶ大阪府知事選挙・市長選挙(一一月)、普天間基地のある沖縄宜野湾 市長選挙(一月)、日本の針路にとって重要な選挙がたたかわれます。来夏の参議院選挙へ向け、平和と人権の輝く日本へ向かう一歩となるようとりくみをすす めましょう。
5.医師の確保と養成、医学生対策の前進を
四二回総会へ向かう半年間の医師分野の中心的重点は、(1)新専門医制度について制度改善へのとりくみの前進と対応の具体化、(2)初期研修の更なる発 展、(3)「二〇〇人受け入れ」へ近づく目に見える前進です。あらためて、民医連医師養成の基本姿勢として、格差・貧困の進行の中、無差別・平等の医療・ 介護を実践し、健康権の守り手として患者に寄り添う医師づくりを推進していくことを確認して具体的な実践を開始しましょう。
(1)新専門医制度のもとで医師養成をすすめるために
二〇一七年四月開始予定の新専門医制度は、この夏に各領域のプログラム整備指針が出揃い、各研修施設群でのプログラム作りが本格化します。この間明らか になった事実から言えるのは、現行の地域医療を引き続き担う医師体制に少なからず影響が出ることと、予定されている基幹施設の資格要件からして、ほとんど の民医連病院は総合診療領域と一部の地域での内科領域を除き、他の研修病院の「連携施設」になって後継者養成をすすめざるを得ないということです。
私たちはこうした新しい条件下での医師養成に果敢にチャレンジするとともに、より良い専攻医教育システムの構築のために努力します。
(1)新専門医制度自体への改善要求活動
民医連の「見解」を携え、より多くの医療機関・団体との懇談をすすめ、地域医療を発展させることのできる新しい制度設計作りに尽力します。プログラム内 の専攻医数や基幹施設での研修期間など最終的にそのプログラムを機構が認めるかどうか、地域ビジョンとの関係で行政の関与がどの程度影響するのかも不透明 です。未だに事実を詳しく知らない医師が全国に多数います。さらに広く「見解」を知らせ、制度改善を国と機構に求めていきましょう。
(2)民医連医師養成のための新たな「連携」作りに挑戦しよう
より有効的で実践的な「連携」を模索し、民医連医師の後期研修を具体化しましょう。各領域のプログラム整備指針を詳細に分析し、自施設のポジショニング に応じて、民医連内外の研修施設との連携を構築しましょう。その際は民医連としての主体性を最大限確保できるよう条件作りができることがベターです。その 地域で必要な専門医療を見極め、その医療が継続できるよう全力でとりくみましょう。この連携は研修条件を満たすのみならず、今後のその地域医療の在り方、 発展を連携相手とともに模索できるような新たな「地域連携」を生み出す視点も大切にしましょう。
総合診療科や一部の地域での内科など、整備指針に照らし可能なところは基幹施設の獲得を重視してとりくみましょう。民医連間での連携も大いに追求しましょう。
基幹施設であっても連携施設であっても、今後民医連施設内で行われる専攻医教育は、「専門医」育成にふさわしい内容で行われることが求められます。より質の高い後期研修の実現に挑戦しましょう。
新制度施行に伴い新たに発生する実務に対応する体制整備が必要になります。「新専門医制度に対する事務幹部・研修事務担当者会議」で確認された必要な準備を遅滞なくすすめましょう。
(2)初期研修のさらなる発展を目指そう
新専門医制度は、医学生に様々な影響を与えます。「専門医を取得するには初期研修を大学で始める必要がある」と学生に説明を行っている大学もあり、そも そもの初期研修の意義と役割を見失いがちになる医学生が増えることが懸念されます。新専門医制度を新たな契機として、医師養成の在り方、専門医の在り方な ど積極的に医学生と語り合い、国民が求める医師像を示し、共に模索し民医連医療への合流を呼びかけていく活動を飛躍させていきましょう。
特に後期研修を他施設で行う時間が確実に増える状況を踏まえ、民医連医療の価値やその社会的役割についてじっくり考え、研修医自身の医療観を豊かに醸成 できるような初期研修を実施することは、民医連の後継者養成にとって今まで以上に重要になります。医師集団を中心にしっかり議論してこの課題を前進させま しょう。
(3)二〇〇人受け入れを現実のものに
医師養成をめぐる情勢認識を一致させ、低学年からの奨学生確保と新卒医師の受け入れに全力をあげましょう。そのために地協単位、県連単位での年次目標も議論し、医学生対策活動の前進を築くスタートを切っていきます。
この課題は全組織を挙げたとりくみとしない限り達成できないものです。文字通り幹部が先頭に立ち、組織全体の課題とすることが重要です。中国四国地協、 東京民医連などがとりくんだ「医師の確保と養成をすすめる幹部決起集会」などのとりくみに学んで、医師と幹部役職員が先頭に立つ組織づくり、医学生委員 会・医学対担当者の体制の強化、地協間・県連間協力を強めオール民医連でダイナミックな活動を展開しましょう。
医師部・医学生委員会で、二一年卒の段階で二〇〇人受け入れをやり上げる方針の議論をすすめています。二一年卒二〇〇人受け入れにとって総会までの期間 は重要な時期です。具体的な課題として低学年での奨学生獲得を大きく前進させましょう。その為の「大運動」を八月に全国に提起する準備をすすめ、一一月、 中間点として医学生委員長会議を開催します。
日本の医師養成が大きく変わろうとする現局面に、この評議員会を起点に民医連の医学対活動の前進へ向けた討議を開始し、四二回総会を前進で迎えられるよう奮闘しましょう。
6.中長期の事業計画の作成と当面の経営課題の前進を
厳しい時代のなかでこそ中長期の事業経営計画を定め、職員と共同組織が団結して民医連の事業と運動を前進させる土台です。そのために、民医連の事業と経営を巡る情勢を学び、共有し、各事業所のポジショニングを鮮明にしていくことが、現状の経営を改善する鍵です。
中長期経営計画は、民医連法人の展望を職員、地域住民の将来の希望に結び付けるものであり、医療・介護活動と経営活動を結びつける点に民医連経営にとっ ての重要なポイントがあります。このことによって医療経営構造の転換を明らかにし、予算管理の力量が向上し、後継者の育成につなぐことが大切です。
病床削減計画や骨太方針の撤回のたたかいを強めるとともに、「集中改革期間」の設定など急激な情勢の変化やその政策の全体像をリアルに踏まえた民医連病 院のボジショニングの変革・創造、特に医師の確保と養成と一体になった戦略と実践の具体化について、各病院がギアを上げてすすめることが求められていま す。
全日本民医連は、一一月に民医連病院院長、事務長、総師長研修・交流集会を開催します。地域包括ケア時代(地域医療ビジョンと計画も含め)における民医 連病院の変革・創造の方向や課題について論点を提起するとともに各地域の民医連病院の展望を切り開くための戦略や実践の困難、その打開の方向を持ち寄り踏 み込んだ交流・議論を行います。特に病院のポジショニングと一体になった総合診療医と専門医の確保・養成や経営基盤の構築・改善と中長期経営計画、などの 議論を予定しています。
一二月に診療所交流集会も開催し、総会方針が提起した民医連事業所の役割について深めます。
二〇一六年度の診療報酬改定も直視し、救急、外来、在宅、保健予防、法人内連携、法人外連携など総合的にどう機能を強化するか、地域でのポジショニング と戦略を明確にし、中長期の事業・経営計画を一〇〇%の法人、事業所で確立しましょう。
今後二年以内に病院の建て替えなど大型設備投資を予定している法人が五六法人あります。一方で、法人の三~五年の資金計画・損益計画を作成している医科 法人は五割程度です。建設費の高騰、消費税増税、診療報酬マイナス改定など、医療経営環境が厳しさを増しており、資金の困難はどこでも起こり得る情勢で す。大型投資を予定していない法人も含めて、中長期の戦略にもとづく経営計画の確立、分析を組織的・集団的に行いましょう。自らの方針の再点検と、県連・ 地協としての点検・対策の強化が求められます。
上半期決算確定後には、診療報酬改定への対応や二〇一六年度予算作成を開始しましょう。
「事業所独立会計制度実施要綱(案)」と、民医連「新」部門別損益計算書およびそれにもとづく「管理要綱(案)」をそれぞれ「要綱」として確認します。
7.全国的な集会の成功を
第四二回定期総会は、二〇一六年三月一〇~一二日、福岡で開催します。さらに全国の団結を強め、総会へ向け全国会議、交流集会を成功させ、時代を切り開く総会方針を豊かに作り上げるため議論と実践をすすめていきましょう。
青年職員の民医連職員としての成長をはかる第三六期全国青年ジャンボリー(九月 岡山)、二年間の各地の実践を持ち寄り交流し、総会につなぐ第一二回全日 本民医連学術運動交流集会(一〇月 九日~一〇日 大阪)を成功させましょう。
おわりに
六月二三日の沖縄慰霊の日、高校三年生の知念捷(まさる)さんは、安倍首相の前で「みるく世(ゆ)がやゆら」(平和でしょうか)という自作の詩を朗読しました。
九〇歳を超えて認知症を患った祖父の姉は、七〇年前の沖縄戦で二二歳の夫を失い、どこで亡くなったかもわからず、亀甲墓の骨壺には彼女が拾った石ころが入っています。
詩の中で、記憶の薄れていく彼女の様子と戦争体験の風化を表現し、「忘れてはならぬ、彼女の記憶を、戦争の惨めさを」と語り、七回「みるく世(ゆ)がや ゆら」と繰り返し問いかけ、最後に「今が平和で、これからも平和であり続けるために、みるく世(ゆ)がやゆら、潮風に吹かれ 私は彼女の記憶を心に留め る、みるく世(ゆ)の素晴らしさを未来に繋ぐ」と結びました。
第四二回総会を私たちは、共同組織の仲間と力を合わせ、平和憲法を守り抜き、憲法を守り活かす日本、いのちが何より大切にされる日本へ前進する展望ある時代を切り拓きましょう。
評議員会特別決議(案)
戦後70年、平和と人権をさらに高く掲げて
第二次世界大戦の終結から70年、日本は平和憲法のもと、一度も海外で戦争することはな く、あの広島・長崎以来、武力としての核兵器使用も世界で一度もありませんでした。この到達点は、戦争と原爆投下という凄惨な加害と被害を経験した日本人 と、平和、人権、社会進歩を求める世界の人々が連帯し、努力してきた結果です。しかしそれは、日本においても決して平坦な道程ではありませんでした。ポツ ダム宣言に掲げられた日本軍国主義根絶と国内民主化は米ソの対立構造の中で変質を迫られ、日本国憲法施行のわずか数年後から「憲法改正」を主張する国家権 力、政治勢力とそれに抗い憲法を守ろうとする人々のせめぎ合いが始まりました。
2015年、再び海外で戦争をする国に向かうのか否かの攻防が熱くたたかわれている戦後70年の夏。あらためて全日本民医連は、戦争をしない国の歴史を 守り、人権としての社会保障の充実を求め実践することを宣言します。
憲法危機の根本にある日本の政治指導者の歴史認識
「戦後50周年の終戦記念日にあたって」という村山富市内閣総理大臣談話は、植民地支配と侵略によって与えたアジアの人々への損害と苦痛に対して痛切な 反省と心からのお詫びを表明しました。それから20年が過ぎ、戦争時代の記憶を自分のものとしている人々はすでに日本人の1割以下となりました。まして や、アジアにおける日本の植民地支配や軍の蛮行を直接知る人はほとんどが亡くなっています。「植民地支配と侵略」の国民的記憶と二度と過ちを繰り返さない 責任の継承は、歴史研究者や教育者の努力とともに歴代政権の意識的な追求なしには困難ですが、今日の政権は真逆の動きをみせています。
村山談話と同じ年の8月15日、安倍晋三氏も参加する自民党の「歴史・検討委員会」が「大東亜戦争の総括」を発行し、「大東亜戦争は正しい戦争、南京大 虐殺や軍『慰安婦』はでっち上げ」と侵略戦争を美化しました。史実をねじ曲げる歴史修正主義が台頭し、「植民地支配と侵略」を肯定する教育のための「新し い歴史教科書をつくる会」の運動、米連邦議会下院による日本軍「慰安婦」問題批判決議に対抗する「歴史事実委員会」のワシントンポスト意見広告(2007 年)などにエスカレートしていきました。こうした中で、軍「慰安婦」問題を含む日本の政治指導者の歴史認識を問うアジア諸国、そして世界の批判が最近10 年一気に高まり、戦後70年の安倍晋三総理大臣談話の内容に注目が集まっています。
あらためて、史実に基づく検証と正しい歴史認識の確認、そして「過去の克服」への真摯な努力を政府に求めます。「植民地支配と侵略」の事実とそれを大罪 と認める歴史認識に立つことは過去のことではなく、これからの日本が世界の国々と平和に共存してゆくための礎であり、いまの日本人に問われていることで す。そして、国家による戦争を日本人はなぜ止められなかったのかを問うことが、今後何があれば止め得るのかという解答につながると考えます。
医療・介護従事者の倫理的行動の出発点としての戦後
戦後70年の年月は、平和とともに人権の歴史でもありました。今日、患者の人権や社会保障制度が当然のこととされますが、この原点も第二次世界大戦の総括によることは歴史の事実です。
ニュルンベルク裁判では、ホロコーストにつながる戦争時代の医学犯罪が国家指導部の強制だけでなく、当時それを担った医師の功利的な欲求でもあったこと が論証され、その反省がニュルンベルク綱領として今日の医学医療倫理の指導的指針につながっています。1950年にドイツ医師会は反省の声明を発表し、ド イツでは自国法によるナチ犯罪裁判を時効なく継続してきました。1988年、ベルリン医師会は、「人間の価値―1918年から1945年までのドイツの医 学」を刊行して検証と反省をし、医学教育でも医師の戦争犯罪についての講義が一般化しています。
ひるがえって日本では、戦争時代の医学犯罪の検証はきわめて不十分です。ハバロフスク裁判などで一定の追求がされたものの、東京裁判では関東軍731部 隊による細菌兵器の開発・実施や生体実験などを首謀した石井四郎らの告発手続きすらされず、九州大学医学部の生体手術・解剖は、「捕虜虐待罪」のみが問わ れ、医の倫理上の審理や判決はなされませんでした。その後、世界医師会加入にあたっての日本医師会の反省決議がなされたものの、医学界による検証はほとん どなされないままです。
2009年、「戦争と医の倫理」の検証を進める会が設立されました。民医連の医師も参加し、よりよい未来のために過去から学ぶ努力がされています (2014年文理閣『戦争と医学』参照)。また、「人権としての医療・介護をめざす民医連の提言2013」では、戦争時代の医学犯罪の自覚と反省を原点に 医の倫理を確立してゆくことが、医療界の自律性、国民と医師、医療者の信頼関係構築の礎となると提案してきました。全日本民医連は、歴史的に十分な検証と 反省をなし得ていない日本の医学・医療界の一員であることを自覚し、戦争時代の医学犯罪についてアジアの人々に心からお詫びするとともに、二度と同じ過ち をおかさない努力と運動を続ける決意を表明するものです。
過去を克服し、東アジアの友好と連帯を求める行動を
全日本民医連は、戦前命がけで戦争政策に反対した無産者診療所を源流とし、綱領に「一切の戦争政策に反対」することを掲げています。1960年の安保条 約改定とその後の改憲策動とのたたかい、原爆投下直後からの被爆者医療の実践、1977年の被爆者の実相を世界に知らせた国際シンポジウム、被爆者援護法 制定や核兵器廃絶への行動、自衛隊海外派兵の策動や米軍基地撤去の各地でのたたかいなど、一貫して平和と憲法擁護の行動を続けてきました。沖縄国際大学構 内への米軍ヘリ墜落(2004年)と同時期に始めた辺野古支援連帯行動は34次に及び、新たな米軍基地建設反対のオール沖縄のたたかいに連帯しています。 2015年のNPT再検討会議では、過去最高の159カ国が核兵器の非人道性を告発し全面廃絶を求める共同声明を発表し、最終文章合意にいたらなかったも のの、核兵器禁止の法的枠組みを求める意見を大勢にすることができました。また、ベトナムの枯れ葉剤に苦しむ子どもたちへの支援、ハルビンの日本軍が遺棄 した毒ガス兵器の被害者支援、在韓被爆者の支援や韓国の医療従事者との交流など、平和と人権を求める東アジアの人々とともに活動し今日あることに誇りと希 望を持ちたいと考えます。
戦後生まれの日本人の孫たちが社会に旅立ち、世界でも活躍する時代を迎えます。戦争させない70年、核兵器を使わせない70年は、憲法9条と運動なしに あり得ませんでした。全日本民医連は、平和と福祉を同時に追求する伝統を持つ日本の民主主義を求める勢力の一員として今後も奮闘し、さらに広範な人々との 連帯をめざします。そして、戦後70年の節目の夏、再び海外で戦争をする国に向かおうとする違憲の企てに抗い、戦争のない世界、核兵器の廃絶に向かって行 動する決意を新たにします。
2015年7月18日 全日本民医連理事会