副作用モニター情報〈279〉 タミフルの精神神経症状 今シーズン 使用制限と十分な注意を
タミフルの副作用は、第一四半期(四~六月)のモニター報告に八県連一五施設から三三件寄せられました。その概要にもとづき、今シーズンの対応ポイントを紹介します。
副作用の症状分類(重複あり)では、焦点の精神神経症状が二〇件と最も多く、低体温や発疹、悪心・下痢、肝機能異常がありました。精神神経症状は異常行 動が七件ほか、幻覚・幻聴や興奮、悪夢、うわ言がありました(図)。
症状発現までの服用回数は、一回目が二件、二回目二件、三回目一件で、投与初期にみられ、中止で回復しました。
また一~三回目、二~四回目の服用で、症状が反復して出現した症例が各一件ありました(症例1、2)。二件とも、服用二~三時間後に症状が出ました。服 用を継続し、その後は発現しませんでした。しかし、このような場合、中止して様子をみるか受診するよう、事前に説明しておくべきだったと考えられます。
服用のたびに副作用症状が反復した成人の事例(症例3)、高熱による影響が否定できた例もありました(症例4)。
タミフルの脳内移行
浜六郎氏ら(TIP)は、「精神神経症状はタミフル未変化体が起こす中枢抑制の結果」 と指摘し、「インフルエンザ感染時に血液脳関門に障害が生じ、タミフルが脳内に移行する」という仮説を立てています。最近の研究から、インフルエンザ罹患 時に出るインターロイキンなどが、タミフルを脳内から排泄するP―糖タンパクを阻害すること、同時に肝臓の代謝酵素も阻害するため、血中濃度と脳内濃度が 上昇すると説明しています。
最近、国内の二グループは、P―糖タンパクの欠落したラットではタミフルの脳内移行が高いことや、幼若ラットではP―糖タンパクが少ないことを発表しましたが、この仮説を補強する内容となっています。
さらに、肝臓で代謝された活性体は、ウイルスだけでなく、人の正常細胞のノイラミニダーゼも阻害します。それが血糖値の上昇、肺炎の誘発など遅発性の多 彩な副作用の原因、と指摘しています。とすれば、同効の鼻孔吸入剤「リレンザ」も、程度の差はあれ、リスクを否定できません。
どの世代も使用制限を
今回、低体温と精神症状の報告二七例(重複なし)中、一〇代は四例で、七歳~一二歳を含めて九例でした。使用制限を一〇代だけに限定した厚労省の対応は、はなはだ不十分です。
また、大阪民医連の集中モニターでは、おおむね有害事象は四人に一人で、消化器系では下痢五%・嘔吐三%が多く、精神神経系では頭痛四%・低体温三%・ 幻覚二%と報告されました。精神症状は一〇代以下でも二〇代以上でもモニターされています。このように、私たちの副作用モニターでも事例が集積されてお り、〇七年三月の全日本民医連声明(医療部発)の通り、全年代での使用制限が必要です。タミフルなどノイラミニダーゼ阻害剤には、インフルエンザ脳炎や感 染予防効果は証明されていません。血液脳関門が脆弱な乳幼児では、突然死との関連を指摘する報告もあり、ハイリスク患者に対する投与も、安全性が確立され ていません。投与は控えるべきです。あらためて、インフルエンザの治療は「睡眠と休養」という基本に立ち返ることが必要です。
今シーズンは、以上の点を各施設で検討し、タミフルを処方する場合は、副作用のチェック項目や対処の仕方を文書などで説明し、使用後の異常を早期発見するなど、踏み込んだ対応が必要です。
【症例1】6歳以下の女子
夜9時、タミフル2回目を服用後入眠。3時間後、突然目を開け一点を見つめ「助けて」と叫び動きまわる。抑えたが強く暴れ「怖い、怖い」と言う。30分 ほど持続(解熱剤の使用中で体温36.4度)。翌日午前、タミフル内服約3時間後に感情的になり「怖い、怖い」と言って泣く(39.4度)。夜9時のタミ フル内服後も感情不安定になり「怖い、ゲームはもう要らない」などと泣いた。前日に比べ症状は軽快。翌日朝の服用後は異常なし(36.8度)。受診し医師 の指示で中止。
【症例2】11歳女子
朝40.1度あり、受診し9時半ごろタミフル1回目内服。その後、布団から起き出し、「暑い」と階段に座っている(この時39.7度)。20時半にタミ フル2回目内服後に入眠。2時間後、夢を見たのか起き上がり、意味不明の言動。目つきがトロンとし、問いかけの反応も「布団から落ちる」「車から落ちる」 など異常で、10分ほど続いて寝入る。翌朝8時タミフル3回目服用(37.2度)。1時間後、目がトロンとしているが異常言動はなし。その後は服用後も異 常なくタミフル4日間服用終了。
【症例3】60~64歳男性
タミフルを服用後、興奮状態のような感覚に襲われた。内部から何かに突き上げられる感じ。飲むたび同じ感覚に襲われ、5回飲んでやめた。
【症例4】7歳女子
タミフル1回目内服。3時間後、ケラケラ笑い出し「だって笑いが止まらないんだもの」などと意思疎通ができない状態になった。スキップしてトイレに行 く。(この時、アンヒバ坐薬使用で解熱しており、体温36.5度)。
(民医連新聞 第1416号 2007年11月19日)
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