副作用モニター情報〈257〉 抗うつ剤・パキシルによる幻覚
〔症例〕70代男性。慢性腎不全で血液透析中。既往歴には、脳梗塞や閉塞性動脈 硬化症、高血圧あり。活気なく食事量も少ないため、心療内科を受診したところ、「うつ」と診断され、パキシル10mgが処方された。1週間後、副作用も見られないため20mgに増量となった。増量して1週間後には不安や焦燥感は減少し、食欲もでてきた。その後は発語も多くなり、症状の改善がみられていた。 しかし、服薬開始から約2カ月後、場所や人物の失見当識がみられ、「蛇がいる」と訴える。すべての問いに全く応答がなく、キョロキョロする。翌日にパキシ ル中止。以後、症状はなくなった。
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パキシルによる幻覚の報告は、パキシルの大量投与か他剤との併用で生じており、通常の場合、常用量での報告はないと考えられる。しかし、透析患者や腎機能 障害のある患者の場合は、血中濃度やAUC(時間曲線下面積)が上昇するため、常用量の50%に減量する必要がある。
この症例でも血中濃度とAUCが上昇していたと考えられる。幻覚などの精神系の副作用は、認知症によるものなのか、その他の精神疾患によるものかの判別は難しいが、腎機能障害、脳血管障害、精神疾患の既往歴がある場合には注意が必要と思われる。
また、パキシルの代謝酵素は主にCYP2D6であるため、代謝が早い人と遅い人が存在し、血中濃度の個人差が20~30倍もある。さらに服用量と血中濃度との関係も代謝酵素の飽和があるため非線形性がみられ、増減により急増、急減する。同じSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)のフルボキサミンと 比べて離脱症状、依存、攻撃性の報告が多いことからみても、使用にあったっては相互作用もふくめ、注意が必要と思われる。
(民医連新聞 第1392号 2006年11月20日)
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